女子レスリング「メダルラッシュ」も至学館は五輪代表ゼロ…海外勢が集まる“虎の穴”となった「名門大学」のいま

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 東京2020オリンピックまでの間、日本の女子レスリングが獲得した金メダルは15個。そのうち、なんと14個までが至学館大の学生または卒業生が獲ったものだった。至学館以外では、東京五輪でようやく初めて須崎優衣(早稲田大)が金メダルに輝いた。金銀銅を合わせても、計20個のうち17個までが至学館の道場で育った選手たちの獲ったメダルだ。至学館以外では、須崎のほか、2004年アテネ五輪と2008北京五輪で銅メダルを獲った浜口京子だけしかいなかったのだ。

 ところが、史上初めて全階級でメダル獲得の快挙を成し遂げた今夏のパリ五輪では、至学館の学生・OGはひとりも代表に選ばれていない。銅メダルの須崎優衣(50キロ級)は先述の通り早稲田大卒。同じく銅メダルの尾﨑野乃香(68キロ級)は慶應義塾大4年生。金メダルを獲った藤波朱理(53キロ級)は日本体育大、櫻井つぐみ(57キロ級)と元木咲良(62キロ級)は育英大卒、鏡優翔(76キロ級)は東洋大卒。これまで至学館オンリーだった女子レスリングの強化拠点が一気に増えた印象だ。

 2018年に起きたパワハラ騒動を転機に、至学館以外の大学に進む選手が増え、分散化が進んだ。パリ五輪の代表を見ても至学館関係者はひとりもいない。至学館出身の伊調馨選手の関係者が、栄和人監督のパワハラを告発した事件が世間の関心を集めた。あの伊調馨をイジメていた? と報じられ、世論はほとんど伊調馨擁護に傾き、栄監督を非難する声が圧倒的だった。私も当初はそう感じたが、詳細に取材をすると、告発した側にも疑わしい点があり、栄監督が受けた社会的制裁は行き過ぎていたと私には感じられた。

国際的な「虎の穴」

 いずれにせよ、栄氏が強化本部長を追われ、栄監督の独裁的体制は崩壊した。結果的に世代交代が進み、多くの大学で五輪選手が強化される環境が整ったのはあの事件の影響と言えるのかもしれない。至学館の関係者で今回わずかに目立ったのは、テレビ中継の解説者を務め、的確な予測と分析で視聴者を唸らせた登坂絵莉だった。登坂は言うまでもなく至学館出身。リオ五輪48㌔級で金メダルに輝き、いまは現役を退いている。

 東京2020まではレスリングの金メダリスト輩出拠点だった至学館勢がゼロになり、愛知県大府市にある至学館の道場は寂しい状況なのか……。現状が気になって取材すると、思いがけない変化を伝えられた。

 女性スポーツの健全な改革を決意して至学館大に女子レスリングを創設し、それを実現してきた谷岡郁子学長自身がパリ五輪の開催中にこう話してくれた。

「私たちの道場(至学館)で練習した選手がパリ五輪に10人以上は出ているのです。毎日、彼女たちの応援で楽しんでいます」

 実はいま、至学館の道場は世界各国のナショナル・チームが次々に訪ねて合宿を行う、国際的な『虎の穴』になっている。この一年の間にも、オーストラリア、ノルウェー、ドイツ、アメリカ、ギリシャ、フランス、イタリア、カナダなど、10カ国以上のナショナル・チームが訪れている。

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