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岩松了氏から受けた“千本ノック”
福岡県の出身で11歳から大阪で育った土居は、今年でデビューから13年を迎えた。舞台や映画、テレビドラマなどの出演作は、すでに30作を下らないが、その背景には厳しい指導もあったそうだ。
「一番しんどいと感じたのは、岩松(了)さんかな」
岩松了(72)は劇作家兼演出家として活躍しながら、一方で俳優という顔も持つ。
「大学2年生の時、岩松さんが演出する『泡』という舞台に出演したんです。岩松さんは演技に関する意見を直接は言わず、周囲が“千本ノック”と呼ぶダメ出しの連続があって。とにかく“はい、もう一回”と言うばかりで、何度も同じ演技を繰り返させる。自分でも何がダメなのか分からなくなって、“何が違うのか言ってくれよ”みたいな気持ちになったこともありました。とても印象的な方です」
自分にセリフを染み込ませていく時間
それは演者にギリギリまで演技のありようを考えさせて、最後に自分で自分の“引き出し”を開けさせる手法と言えそうだ。
「岩松さんが書くセリフは詩的でかつ美しいんですが、同時に難しいものも多い。私も最初はそれを消化できず、意味が分からないままに演じていた。ところが、そのセリフを繰り返し口にしていると、少しだけ腑に落ちたように感じる瞬間があるんです」
岩松はその一瞬を見逃さず、“はい、じゃあ次のシーン!”という具合に事実上のOKを出したという。
「ご自身で書いたセリフが、そんなに簡単で理解しやすいものではないと分かっているんだと思います。だからこそ、私もセリフを自分に染み込ませていく時間が必要というのか、“そういうものもあるのか”と実感する機会を、ほぼ初めての舞台で得られた。この経験は大きな財産になっています」
何色にも染まっていない女優
厳しい指導を施したその岩松は、“教え子”である土居の活躍ぶりに目を細める。
「当時の彼女は大学生でしたが、真剣な眼差しが印象的で、いろんなものが埋蔵されている印象。すれていないと言うのか、未知数の魅力を秘めており、文句なしで採用しました」
稽古場での姿も鮮明に覚えているという。
「演出への対応が早いうえに柔軟で、どんどん良くなっていく。僕は演出の楽しさを再認識させてもらったような感覚で、次々と彼女の変化する演技を見ていました。その姿を周囲で観ていた待機中の役者たちが“おおーっ!”という具合に、小声で感嘆の声を漏らしていたことを覚えています」
岩松は「何色にも染まっていない女優とは、あの時の彼女のことを言うと思う」とも振り返る。
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