「このままでは日本は“パンク”する」後手に回る対策…「オーバーツーリズム」をどうすれば解決できるのか
先進国型の観光とは
ハワイでは、2018年に「日焼け止め法」を制定し、21年から、環境を破壊する特定の成分が入った日焼け止めの販売・流通を禁止しています。また、コロナ禍によって観光客がいなくなったことで、海の水質改善や野生動物の増加といった自然にとっての好環境が生まれました。
規制を設け、観光客に“不便さ”を強いる。一見、観光客を排除する措置に映るかもしれません。しかし、ハワイの海の美しさを守ることによって、結果的に高い付加価値が生み出されます。同時に、環境保全に対する意識などのリテラシーが低い観光客は自ずと足が遠のき、魅力的で過ごしやすい観光地としてさらに付加価値が高まる。自然と観光客の滞在日数は増え、お金もたくさん落としてくれる――この好循環を生み出していくことが、まさに先進国型の観光です。
安易に行われてきた対策
反対に、観光客をとにかく受け入れるだけ受け入れ、そのために地域住民が迷惑し、自然は破壊され、観光地としての価値が損なわれて観光客が寄り付かなくなる。この「負のスパイラル」を招いてしまうのが開発途上国型の観光です。
今は円安の影響もあって日本への観光は世界でも人気の的になっていますが、先進国型に転換しなければ、いつ「ニッポンに行っても満足度は低い」と飽きられ、見捨てられてしまうか分かりません。従って、観光立国を目指すのであれば、「数」から「質」への転換を図るオーバーツーリズム対策が必要不可欠だと私は考えます。
では、どうすれば質を上げることができるのでしょうか。
オーバーツーリズム対策の基本は、効果が高い順に(1)規制的手法(立ち入り許可などの制限)、(2)経済的手法(課金)、(3)情報的手法(マナー改善の啓発ポスターを掲示するなどの情報戦略)です。
これら三つの対策を組み合わせることによって、質を高めていくわけですが、日本の行政の対策はこれまで(3)がメインでした。(1)や(2)は観光業者など利害関係者との調整が難しい。そのため、効果は薄いものの、とりあえず簡単にできる(3)の対策が取られてきました。その背景には、2~3年もすれば担当の行政官は異動になるため、とりあえずその場しのぎともいえる(3)の対策が、安易に行われてきたという事情もあります。
「自粛」は通用しない
しかし、拘束力のない自主的ルールや協力金は、コロナ禍での「自粛」がそうであったように、日本人以外には通用しません。強制力を伴った(1)(2)の対策を取らなければ、決してオーバーツーリズムは解決しないのです。
例えば(1)に関して見てみると、富士山と同じクラスの高さの、台湾の玉山(大日本帝国時代は新高山、3952メートル)は、1日あたりの登山者数を200人と厳しく規制しています。
富士山の山梨県側の吉田ルートでも、今年の7月からようやく入山規制が開始されました。そのこと自体は評価できるものの、1日の上限は4000人。玉山とは桁が違う上に、規制が設けられたのは吉田ルートだけで、静岡県側からの登山には現状、人数規制がありません。
また(2)については、パラオでは外国人観光客に限って100ドルの入国税を徴収しています。さらに外国人観光客には、“パラオという美しい島を保全することを誓う”といったことなどが書かれた「パラオ誓約」にもサインをさせています。
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