「このままでは日本は“パンク”する」後手に回る対策…「オーバーツーリズム」をどうすれば解決できるのか
これはもはや全国民共通の“悩み”と言っても差し支えあるまい。混み過ぎで、おちおち旅行も楽しめやしない……。観光立国を目指す日本が直面しているオーバーツーリズム問題。“混雑疲れ”を実感する夏休みだからこそ、専門家による解決案に耳を傾けてみよう。【田中俊徳/九州大学アジア・オセアニア研究教育機構准教授】
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【写真を見る】「さすがにマナー悪過ぎ…」 “塀の上”に登って電車を撮影する外国人 観光客も
「2030年に(年間)訪日客6000万人を目指す」
今年4月、政府は改めてこうした方針を打ち出しました。訪日外国人観光客の数が増え、日本の素晴らしさが多くの人に伝わり、そして日本経済が潤うことは、観光に関する研究を続けてきた私としても大いに歓迎するところです。
しかし一方で、こうも感じました。
「政府はどれだけ“本気”なのだろうか」
〈こう話すのは、九州大学アジア・オセアニア研究教育機構准教授の田中俊徳氏だ。
環境政策・ガバナンス論を専門とする田中氏は、ユネスコ本部世界遺産センターなどで研究し、観光のあり方についての論考を重ねてきた。
6月に著書『オーバーツーリズム解決論』を上梓した田中氏が続ける。〉
日本が“パンク”する
なぜ、「6000万人目標」の本気度が気になったのか。それは、もし今のような状況のまま訪日客が増え続けたら、日本が“パンク”してしまうのは目に見えているからです。
オーバーツーリズム。
この問題が解決しない限り、6000万人どころか、3477万人(今年の訪日客の予測値)ですら多すぎると、眉をひそめる人もいるのではないでしょうか。実際、外国人を含む大量の観光客による大混雑に巻き込まれ、不快な思いをした経験がある人は少なくないはずです。
にもかかわらず、入域者数の上限設定や入域料の徴収などを行ってきた諸外国に比べ、日本のオーバーツーリズム対策は後手に回っていると言わざるを得ません。
観光の「質」を置き去りに
その原因としてはさまざまなことが考えられますが、何よりもまず「数ありき」であった点が挙げられます。観光の「質」を置き去りにし、とにかく訪日客の数を増やそうとしてきた結果、今のオーバーツーリズムに至った面は否定できないように感じます。
数ありきの姿勢だったのは国に限りません。自治体も同様です。例えばハワイをライバル視してきた沖縄県は、年間観光客数1000万人を目標に掲げ、現に2017年には、ハワイ州の観光客数938万人に対して沖縄県は939万人と、ハワイを追い抜き、その翌々年には1000万人を突破しました。
しかし、観光客の平均消費額はハワイの3分の1、滞在日数は2分の1にとどまっています。その上、マナーの悪い観光客によってサンゴ礁が踏み荒らされたり、便乗的に観光業に乗り出してきた悪質な事業者がガイドを行ったりと、環境破壊やトラブルが後を絶たず、観光の「質」の面ではハワイに及びません。
つまり日本の観光は、数を求める「開発途上国型」であり、環境を保全しつつ高付加価値を生み出していく「先進国型」にモデルチェンジすることができていないのです。
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