「寅は、けえります」 撮影で訪れた温泉宿を去る渥美清の“粋過ぎる”一言、当時のスタッフが回顧
「寅は、けぇります」
撮影を終えて、渥美が「鶴霊泉」から出発する時のこと――。玄関に皆がそろい、お見送りをしようと待っていると、渥美が階段を下りてきた。
彼は靴をはき、立ち上がる。すると、半身ほど振り返り、右下斜め45度にスッと視線を落とし、横顔を見せて、
「寅は、けぇります」
そう、一言を残して去って行った。「お世話になりました」「また来ます」といった月並みな別れの言葉を交わすのではなく、世話になった地元の人々のためだけに、“車寅次郎”として、あのしみじみとした温かみのある口調で「寅は、けぇります」とだけ言い残す。喜劇役者の“粋”が発揮された名シーンだった。
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