「金づちで毛布を壁に打ち付け…」 お忍びで温泉宿を訪れた美空ひばりの”謎の行動”… 大女将が追憶

エンタメ

  • ブックマーク

「お部屋の壁や柱に毛布を打ち付けて…」

 すると喜美枝から「金づちと毛布が欲しい」と連絡があったとして、若松さんはこう続ける。

「喜美枝さんは、6畳1間のお部屋の壁や柱に、金づちで毛布を打ち付けて、部屋の明かりすら漏れないようにしようとしたんですが、私は『部屋が傷つく』と怒りました。そこまでして、ひばりさんのプライバシーを守ろうとしていました」

 さらに驚くことに、

「ひばりさんが『広いお風呂に入りたい』というので、部屋の外の家族風呂に入浴していただくことになったのですが、喜美枝さんは他のお客様とひばりさんを会わせないようにと、お部屋から家族風呂までのほんの15メートルの廊下に、3人の男性を見張りに立たせていました」(同)

「出されたものを食べなさい」

 だが、ひばりも守られているだけではなかった。

「ひばりさんご本人は本当に普通の方で、お母さまに止められても一人で大浴場に行かれていた」(同)

 ひばり一行は大広間を借り切って夕食を取り、テーブルにはいわき名物のヒラメ刺しや、肉厚のヤナギガレイの焼き魚が並んだという。朝食には生卵を出した。

「生卵を見て、ひばりさんと一緒にいた男性が『卵焼きがいい』と言い始めたんです。それをひばりさんは『出されたものを食べなさい』と制する場面がありました。やはり普通の感覚をお持ちの方でした」(同)

 美空ひばりもその一瞬、素顔を見せたのだ。

山崎まゆみ(やまざきまゆみ)
温泉エッセイスト。1970年新潟県生まれ。跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)。内閣府「クールジャパン・アカデミアフォーラム」や国交省、観光庁の観光政策会議に有識者として参画。9月6日『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)発売。

週刊新潮 2024年8月15・22日号掲載

特別読物「宿帳が語る『スター』“裸”の素顔」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。