「TRUE LOVE」のイントロは藤井フミヤの弾き間違いだった…ミュージシャン・佐橋佳幸が明かす“ミリオンヒットが生まれる現場”
TRUE LOVEのイントロはなぜ変拍子か
佐橋のもとにすぐにデモテープが送られてきた。「蚊の鳴くような声で、部分的に歌詞があったにせよ、ほぼラララで歌われていた」というそれを聴き込み、五線譜を準備した佐橋は「おや?」と立ち止まった。
「何度聴いても、イントロは変拍子、だよな」
4拍子に3拍子が加わった7拍子。だが藤井があえて意図的にやったものだと汲んだ佐橋は、これを忠実に譜面に起こし、オケを作った。
ところが、である。仮歌入れにやってきた藤井は開口一番「何? この変拍子?」とのたまったのだ。実はデモテープでは藤井が弾き間違えただけだった。だが、すでに他の人たちはこの変拍子に耳が馴染んでおり、そのまま採用されることになった。
この曲が主題歌になることが決まっていたドラマ「あすなろ白書」のプロデューサーだったフジテレビの亀山千広氏は、連日のようにスタジオにやってきていた。「インパクトのあるイントロにしたいね」と話す亀山氏に対し、当初は、サイモン&ガーファンクルの名曲「ボクサー」に出てくる「ライラライ」の後の「パーン!」というような音のアイデアもあった。しかし、佐橋がストリングスアレンジ用に考えていたものをギターで弾いてみたところ、「それだ!」。あの今でもイントロクイズに出されるような名イントロはこうして誕生した。
ちなみに、1991年の大ヒットドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」の「チャカチャチャーン」というイントロも佐橋の手によるものである。後世にまで残る音楽とそのイントロ。かくもアレンジやその演奏というのがいかに重要であるのか、ということがわかる。
時代の変遷に対応しながら
佐橋がスタジオミュージシャンとして、アレンジャーとして重宝されてきて早40年が経過した。音楽は時代とともに生きるが、制作方法や環境はものすごいスピードで変化してきた。
「僕自身、スタートの頃はアナログテープだったものがデジタルになった。それだけでも全く音のつくり方が変わる。1990年代半ばからはオーディオファイル化が始まり、今やスマホでできる時代に。録音のマルチテープもデジタル化し、昔だったら24チャンネルしかなかったトラックをどう使うかということで頭を悩ませてきたが、今はそれが無限大ですから」
そんな技術の発展にまつわる興味深い話がある。佐橋が敬愛する高橋幸宏がソロ第1作の「Saravah!」の再現ライブを2018年に行うにあたり、レコーディング時のマルチトラックを入手。当時の音のほとんどを聴くことができたが、テンポを図るクリックトラックが消えていた。全員でテンポを計り、その近似値を出して再現に結び付けたという。
佐橋はこのアルバムを、高校生のときに付き合っていた彼女に貸してもらったと高橋に告げた。すると「青春の甘酸っぱい思い出があるんだね、僕のレコードに!」と喜ばれた。高橋はドラムの林立夫を押さえることだけを佐橋に頼むと、あとは佐橋が集めたメンバーで再現ライブに臨み、大成功を収めた。
[2/4ページ]