「宇都宮の新型路面電車」が予想外の好調 開業1周年で見えてきた課題とは

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沿線訪問で見えてきた課題

 自治体と鉄道・バスの事業者による連携は、都市開発でも目に見える効果を発揮した。宇都宮駅の東側は東北新幹線が開業する1982年までは手つかずで、それまでは茫洋とした荒野のような大地が広がっていた。ライトラインの開業に合わせて宇都宮駅東口に複合商業施設などが整備され、沿線にあったニュータウンも再造成された。

 筆者はライトラインの開業前の2023年7月に宇都宮を訪れて、全線を自転車で走破した。工事が完了した区間や試運転の様子を見て回り、さらには開業後にも定期的に現地へと足を運んで、沿線風景や利用者の変化を観察している。

 宇都宮の新型路面電車が成功していることは数字にもはっきりと表れているが、何度も沿線を訪問していると課題も見えてきた。

 少し専門的な話になるが、簡単に説明しておきたい。

 一般的にJRや大手私鉄などの鉄道事業者は、鉄道事業法と呼ばれる法律に基づいて運行している。対して、路面電車と呼ばれる鉄道は軌道法と呼ばれる法律に準拠して運行している。

 鉄道事業法と軌道法では、さまざまな違いがある。特に軌道法は、「原則的に道路に線路を敷設しなければならない」という制約がある。この制約によって、路面電車は自動車と道路を共用して走っている。鉄道用語で、こういった区間を併用軌道と呼ぶ。

 ライトラインは全区間が軌道法に準拠して建設された正真正銘の路面電車だが、一部には電車だけが走行する専用軌道区間もある。

 道路に線路を敷設することはあくまでも原則だから、ライトラインに専用軌道区間があっても問題はない。ただ、通常は線路と道路が交差する地点には踏切を設置しなければならない。これが厄介な問題として横たわっている。

 国土交通省は原則的に踏切の新設を認めていない。つまり、線路を新しく敷設する際は、立体交差にすることが求められている。これは路面電車にも適用される。

開業当初は事故も

 この点が曖昧なままライトラインは建設されたので、建前として線路と道路が交差する地点に踏切を新設していない。本来なら専用軌道とする区間も併用軌道という扱いになっている。そのため、道路と線路が交差している場所には警報器や遮断機がないという“危険地帯”が出現した。

 ライトラインでは、そういった危険地帯に警報ランプを取り付けて電車の接近を知らせている。電車の接近を知らせることで、事故を防止するように努めているが、警報器と遮断機が装備された正式な踏切と比較すれば、その安全性は段違いと言わざるを得ない。

 宇都宮市は、過去に路面電車が走っていたことがない。電車と自動車が混在する併用軌道に不慣れなドライバーが多く、ゆえに開業当初は自動車ドライバーが線路内に誤進入や接触する事故も起きている。

 路面電車が開業したという目新しさもあり、また今後の啓発的な意味も含めてライトラインと自動車の事故は地元ニュースで大きく扱われた。そして踏切の安全対策は、開業当初のままで、いまだ手つかずになっている。

 ライトラインの成功を受けて、新型路面電車の導入を検討する自治体は増えていくだろう。しかし、そこでも専用軌道・併用軌道や踏切の新設といった問題が出てくるだろう。

 宇都宮で見えた課題は、軌道法や道路交通法といった法律が関係している。それは宇都宮だけで解決できる問題ではない。

 政府が動かなければ、宇都宮のようにイチから路面電車を新設する都市は出てこないだろう。宇都宮が成功したことによって、国を動かすことはできるのか?

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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