「宇都宮の新型路面電車」が予想外の好調 開業1周年で見えてきた課題とは
「路面電車」の難しさ
巨額な建設費を投じて新型路面電車を開業させた宇都宮にとって、新型路面電車は何が何でもPRする必要があった。その理由は、ライトラインは宇都宮駅の東口から延々と東へと走っているので、その恩恵は宇都宮市東郊の一部しか得られないことだった。
多くの市民は新型路面電車が開業しても日常的に乗る機会はなく、事業に対する理解は深まらない。理解が深まらないならまだしも、わずかなエリアのためだけに、多額の税金を使うとはけしからん!という不満も出てくる。
全市民を巻き込むには、ライトラインを宇都宮の新たなシンボルにする。それには、沿線外から来街者や観光客を呼び込むしかない。路面電車は一般的に市内交通を役割にし、乗客の多くは通勤・通学で利用する。通常なら、沿線外需要を多く創出できる交通インフラではない。
沿線外需要を創出するには、沿線に集客施設や観光拠点を整備して誘客する必要がある。しかし、それには費用も時間もかかる。簡単にはできない。
沿線住民を対象にした公共交通は、朝夕の通勤・退勤時間はそれなりに混雑する。しかし、昼間帯は買い物ぐらいの需要しかない。休日も同様で、地方都市だとその役割はマイカーで十分に務まる。
そうした事情から、線路や架線といった専用の施設を必要とする路面電車は非効率との認識が強く、ゆえに公共交通を新たに整備する場合は線路などの諸施設を整備しなくてもいいバスが選ばれていた。
予測を大きく上回った需要
宇都宮はこれまでの常識を覆し、当初の需要予測を大きく上回った。なぜ、ライトラインは成功したのか? その最大の要因は、平日の昼間帯や土日などの利用者が想定以上に多かったことだ。これは沿線外需要を生み出したことを意味するが、ライトラインの沿線には観光地らしい観光地はない。
沿線には栃木県グリーンスタジアムがあるぐらいで、ここは栃木サッカークラブがホームスタジアムにしているものの毎週のように試合が開催されているわけではない。集客力は大きくなかった。
また、飛山城跡という史跡もある。これも市外から観光客を呼び込めるほどの強い訴求力はない。
それにも関わらず、ライトラインは沿線外需要を想定以上に生み出した。これは自治体・民間事業者・ライトライン・市内のバス事業者がきっちりと連携したことで、鉄道とバスがシームレスで移動できるようになり、沿線住民にその利便性を実感してもらえたことが大きいだろう。
沿線住民は通勤・通学だけではなく、休日にもライトラインで外出する機運を高めた。
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