〈腰パンで代表辞退沙汰〉〈生意気だから代表漏れ〉 「チッ、うっせーな」と言いたくなるのも分かる“五輪選手への大バッシング”やめませんか(中川淳一郎)

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 毎度、五輪では新たなるスターが次々と誕生し、TVを中心としたメディアに登場します。五輪とは、選手がどのように第二の人生で活躍していくかを決める重要な大会でもある。

 1984年、体操男子鉄棒で優勝した森末慎二さん(跳馬銀、団体銅)はその代表格。イケメンっぷりと明るい性格がウケました。女子でもマラソンの増田明美さんが理論的に競技を分析するほか、マラソンの解説でも豊富過ぎる知識を披露し、人気者に。

 五輪出場者、特に金メダリストは自身のキャラやトーク力で別ジャンルの活躍ができる。五輪出場はそのためにも大事なものなので、喫煙飲酒が発覚した体操・宮田笙子選手のパリ五輪出場辞退は気の毒でした。

 法律違反ではあるものの、批判している人々だって大学や専門学校に入った時、新歓コンパなどで酒飲んでますよね……。キチンと反省をしているわけでしょうから、それまでの努力の結晶を砕くうえに、生涯喫煙のことを取り沙汰され、将来的な活躍の場が奪われたというのは懲罰としても重過ぎるように思えます。「ルールはルール!」と言いたい人からは総スカンですが。

 そして、なまじっかメディアが注目したからその後キツい目に遭う人もいる。2000年、水泳・田島寧子さんは銀メダル獲得後の「めっちゃ悔し~い、金がいいですう」発言と、あの明るいキャラでバラエティー番組の寵児に。そこで消費され過ぎ、20歳で現役を引退し、大学も中退。「女優になりたい」と述べれば、ネットでは「痛い発言」などと散々な扱われ方でした。

 2007年に芸能界からは引退しましたが、晩期は露出も少なかった。そんなことから2021年の毎日新聞では「田島寧子さん『めっちゃ悔しい』からの地獄 闇を照らした一言」という記事が登場しました。

 続いて気の毒だったのが水泳の千葉すずさん。シドニー五輪代表選考で基準を通過しながらも、「生意気である」ということで日本水泳連盟から嫌われ、代表漏れに。メディアもこの論調に乗っかり結果的に国民も千葉さんたたきに加担しました。初期の頃「美少女スイマー」と持ち上げていながら一気に手のひら返しをしたのです。

 2010年・バンクーバー五輪のスノーボードハーフパイプの國母和宏さんは、いわゆる「腰パン」がだらしないと批判され、謝罪会見をしましたが、「チッ、うっせーな」という一言がマイクに拾われた後に「反省してまーす」と言って大バッシングが発生。「代表にふさわしくない」といった意見まで飛び出し、橋本聖子団長の判断で開会式欠席という処分になりました。百歩譲って喫煙はまだしも、腰パンで代表辞退が取り沙汰されるって何なんですかね。

 あとはリレハンメル五輪の際、ライバルのナンシー・ケリガンさんを襲撃したと目されたトーニャ・ハーディングが第二の人生で格闘家になったのはビビりましたわ。

 さらに仰天するのがコラムニストの故・ナンシー関さんですよ! 金メダルを取った田村亮子さん(谷亮子さん)が将来的に選挙に出る、と予想したらドンピシャ! すごい文筆家がいたものです。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2024年8月15・22日号掲載

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