夕方ニュースが「年金生活の苦境」企画を連発 背景にある2つの事情と“テレビの老い”

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メディアの栄枯盛衰を感じる…

 いずれの企画でも登場する高齢者たちはたくましく、「やっていけるわけないでしょ!!」などとカメラの前で言いながらも、笑い、苦しい状況でも生き抜いている。その明るさや人間のしぶとさに救われるような気にもなってくる。彼らの証言を端緒に、ニュースでもなかなか放送されない専門的な制度の話につながることもある。たとえば多額な出費が必要になった時に、自宅を担保に銀行から借金する「リバース・モーゲージ」という融資方法を利用するケースを紹介する、など。こんな“実用的”な情報を視聴者に届けることもできる。

 とはいえ、若い世代からは興味を持たれない企画であることはたしか。民放の各テレビの特集が「シニア向け」「年金生活者向け」にターゲットを絞るようになってきたことには、SNSの時代に入って劇変しつつあるメディアの、栄枯盛衰を感じてしまう。新聞が高齢者向け媒体だった時代に、まだ若いメディアだったテレビに関わったような筆者のような人間からすると、テレビも今はすっかり「お年寄り向けメディア」であることを自覚し、かつ居直っているフェーズに入ったようにも思える。民放ニュースが軒並み「年金」に注目することは、テレビというメディアの「老い」を決定づける出来事なのかもしれない。

 シニアに向けた年金企画はある意味でワンパターンだ。街頭で高齢者に年金の額がいくらなのかを尋ねるところから始め、どのように暮らしているのかを聞き出し、時にそこに「退職金はどうしたか?」などの付加情報を加えて伝える。一方で、市井の人びとの「ドキュメンタリー」といえる見逃せない側面もある。そうした魅力もあって「年金生活者もの」特集は、今後しばらくの間は夕方ニュース番組で一種のブームになっていくに違いない。お金をめぐるそれぞれの切実な事情を知るニュースは、やはり人間くさくて面白い。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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