夕方ニュースが「年金生活の苦境」企画を連発 背景にある2つの事情と“テレビの老い”

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 最近、民放テレビの夕方ニュースで「年金生活」特集をよく目にするようになった。お年寄りにインタビューし、その生活の苦境ぶりを明かしてもらうという内容が多い。こうしたシニア向けの企画に、各局が組む理由はどこにあるのだろうか。【水島宏明 ジャーナリスト/上智大学文学部新聞学科教授】

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 典型的なのがフジテレビの夕方ニュース「イット!」だ。

 8月15日の同番組では、「きょう15日は2か月に一度、年金の支給日。都内の金融機関には多くのシニア層の姿がありました」というナレーションとともに、物価高や猛暑で支出が膨らむシニア世代の年金の使い道を取材したVTRを放送していた。

 登場したのは、年金の振り込みを確認し、ジムの料金を振り込みに来ていた80代の女性や「家賃払って食べていくだけで、あと余裕なんかありません」と語る、56歳の娘と二人で暮らす89歳の女性だ。

 そして、年金支給日に合わせて割引サービスを展開する各店のサービスを取り上げる。ツルハドラッグでは60歳以上のカード会員を対象に割引サービスを実施している、マルエツも60歳以上を対象に獲得ポイントを5倍にする、などなど。東京・足立区のスーパー「ベニー」は年金支給日に米の特売を行うもすぐに完売しており、買えなかったシニア世代が「朝早く来ないとないってことですよね」と嘆く。刺身を買おうとした69歳の年金生活者は、値段の高さゆえ手が出ず、300円のクリームコロッケを買っていく様子も放送していた。

「もやしばっかり食べてる」

 これまでテレビ局は、比較的若くてお金を落とす人たちを対象に番組を作ってきた。流行に敏感で購買力がある女性のF1層(20-34歳)やF2層(35歳-49歳)、男性で自動車など購入する資力があるM2層などの視聴者に、いかに番組を見てもらえるか。スポンサーにとっても望ましい対象だとして、長い間、こうした世代に向けた視聴率競争を繰り広げてきたわけである。

 それなのに最近、明らかに「シニア世代」や「年金生活者」をターゲットにした特集がニュース番組でも目立つようになっている。

 夕方ニュースの中では、もっとも熱心に「年金生活者の苦境」を放送しているのが「イット!」だが、実は先に紹介した放送の前日14日も、「しらべてみたら」という特集コーナーで「人気シリーズ“年金の現実”」を放送している。街で出会った高齢者たちに、受け取っている年金の額や生活の様子などを聞き出し、生活の苦しさを伝える構成だ。

 借家暮らしの80代女性は年金額を「約8万円」と打ち明け、家賃が6万円なので1か月の生活費は2万円でやりくりしていると語る。そのため「もやしばっかり食べてる」し、「スーパーの一番最後、夜8時、9時すぎに来て、半額ぐらいになったのを買っている」という。

 ただ困窮する声を紹介するだけではない工夫もみられる。この日は、年金だけでは暮らしていけなくなった“誤算”を紹介するという切り口で、以下のパターンを紹介していた。

・「住まい」をめぐる“誤算”…「住まい」が持ち家かどうかで状況が変わる。持ち家でも家賃は払わずに済むが思わぬ修繕費がかかることもある。

・「健康」に関する“誤算”…思わぬ病気での出費。難病を患った、認知症の影響で出費が想定よりかさんだという人も。

・「高い介護保険料」という“誤算”…自治体によって保険料は異なる。全国で最も高いのが大阪市で、1か月平均で9249円。

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