「南海トラフ地震」1週間以内の発生確率は0・5%で「根拠は政府が寄せ集めたデータ」…真夏の列島を震撼させた「臨時情報」の知られざる真実

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 8月8日に宮崎県を襲った震度6弱の地震を受けて、初めて発表された南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)。政府は15日、臨時情報に伴う防災上の呼びかけを終了した。「南海トラフ地震の確率が上がっている」という強烈な呼びかけに列島は震撼し、シーズン真っ只中の観光業を中心に各地で「自粛」が起きた。だが臨時情報の科学的根拠は非常に薄く、自粛のコストは自治体や企業、個人に丸投げという問題もある。2023年に菊池寛賞を受賞し、24年の新潮ドキュメント賞の最終候補にも選ばれた「南海トラフ地震の真実」(東京新聞)著者の東京新聞・小沢慧一記者が臨時情報の問題に迫る。

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ビーチ閉鎖の白浜町の損失5億円 コスト丸投げの臨時情報

「苦渋の決断だった」。そう語るのはビーチを閉鎖した和歌山県白浜町の観光課長だ。閉鎖による影響約5億円の影響が出たとして、同町は政府に今後の集客回復策の協力などを陳情する方針だ。財政規模が100億円ほどの白浜町にとって閉鎖した9~14日は「トップシーズン中のトップシーズン」。しかし南海トラフ地震に関する政府情報という発表の“重み”から、閉鎖せざるを得なかったという。

 8日の発表時に前面に立ったのは、政府の担当者ではなく、地震学者で「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の平田直会長だった。「地震学的には(地震の発生確率が)数倍高くなったことは極めて高い確率です」と危険性を強調。一方、対策について「避難経路を確認すれば海水浴をしても個人的には問題ないと思う」と控えめな対応にとどまっていた。

「平田会長の個人的な見解を言われても…」

 と、会見を見た観光課長は呆れて言う。

「対策はこっちに丸投げ。政府はせめてもっと丁寧な説明をしてほしかったが、会見も煮え切らない内容だった」

 その上で語る。

「政府に補償を求めるわけでない。私たちの声を聴いてよりよい制度にしてほしい」

発生確率は0・5%

 臨時情報(巨大地震注意)が想定する、一週間以内の巨大地震発生確率は0・5%だ。しかし、東京大学総合防災情報研究センターの関谷直也教授が実施した緊急アンケートによると、巨大地震注意の臨時情報を見聞きして4人に3人が「地震が起こると思った」と答えた。過剰に危険性が伝わったようだ。

 臨時情報は、過去の統計を根拠に出されており、不確実性をはらむ。政府が「地震に注意し、普段の生活を」と呼びかけたのは、根拠がないことの裏返しだ。それ以上の対策は「地域の事情をよく知っている」と自治体などに委ねており、そのコストは「自己負担」だ。

 今回の注意情報は、呼びかけ後、対象地域に異常が確認されなければ、1週間で終了と決まっており、発表時に必要だった専門家の検討会は開かれることもない。なぜ終了の時だけはここまで“自動化”されているかというと、地震が「起きること」を予測できないのと同様、「起きないこと」も予測できないからだ。「発生可能性が高まっていない」として警戒を解除することは事実上の安全宣言につながり、呼びかける側の責任も重くなる。そのため、避難に耐えられる期間を事前に住民にアンケートし、その結果、呼びかけ終了時期を1週間と定めたのだ。

 元京大防災研究所の橋本学氏は言う。

「呼びかけ期間を1週間とした判断の責任を住民に負わせている。予知体制の時代は予知を信じていたので、政府の号令で一斉避難させることとなっていたが、臨時情報は科学的根拠に自信がないので、『空振り』でも政府は一切責められないようなシステムになっている」

 関西大社会安全学部林能成(よしなり)教授は「情報を出す効果と空振りになるリスクをてんびんにかける必要がある」と言う。

 注意情報を受け、多くの地域でさまざまな影響が出た。政府は過去には東海地震の「警戒宣言」が外れた場合の経済的損失を「1日で数千億円」と試算しているが、臨時情報に関しては試算を行っていない。

 林氏が指摘する。

「『命』を前に、コストを考えることはタブーだった。だが不確実な根拠しかない臨時情報の場合、効果と副作用を検証するのは当然だ」

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