父親の暴力から逃れた“虐待サバイバー”が連続傷害事件を… 「悲しき暴力の連鎖」描く今夏最もおぞましい“胸糞ドラマ”【降り積もれ孤独な死よ】
ある屋敷の地下室で白骨化した子供の死体が13体見つかる。屋敷の持ち主は顔にあざのある男、灰川十三(小日向文世)。彼は、親からの虐待や暴力で苦しむ子供たち19人を保護し、共同生活を送っていた。警察は灰川の行方を追い、生き残った子供のうち5人に話を聞くと、全員が「灰川は犯人ではない」と口をそろえる。
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ところが、灰川は逮捕されて犯行を自供した後、留置場で自殺。この灰川邸事件は被疑者死亡で幕を閉じたかのように見えたが、主人公の刑事・冴木(成田凌)は真相究明を諦めない。弟の蒼佑(萩原利久)が灰川邸の子供たちの一人で、実は冴木自身も父の暴力から逃れた虐待サバイバーだからだ。また、蓮水花音(吉川愛)は、母親の育児放棄で常に飢餓状態だった幼少期、灰川に救われて生き延びるすべを教わった恩がある。感情表現に難はあるが、冴木の捜査に協力していく。
発端はこの灰川邸事件だが、そこからつながる虐待や暴力の負の系譜が実に興味深い「降り積もれ孤独な死よ」は、今夏最もおぞましく胸糞悪いドラマかもしれない。それでも、親から子へ継承されてしまう暴力衝動の行方、被害者の苦悩、加害者の背景など、複雑に絡ませて描く内容は硬派だ。
主人公の冴木は苦悩を抱えている。灰川邸事件を追う一方で、子供を虐待する男だけを襲う連続傷害事件を起こしていた、というのもなかなかに攻めた設定である。先輩刑事・五味(黒木メイサ)は冴木の犯行に気付きながらも、良心と自主性に任せることに。
子供を虐待したり、弱い女性を狙って暴力を振るう人間を許すまじと思うが、この手の輩はいっこうに減らないのが現実。背景にはドラマでも描かれた「悲しき暴力の連鎖」がある。また、加害者に必要なのは罰することだけでなく、暴力衝動や怒りの抑制の教育だ。厳罰と同時にカウンセリング&治療が必要ということも描き、主人公にも罪の重さを背負わせている点がよい。
灰川の過去を探る冴木と花音。灰川は幼い頃、地元の資産家である父親(駿河太郎)から虐待されていた。顔にあざがあるせいで家に閉じ込められたのだ。そんな灰川少年に寄り添ってくれたよそものの大人(吉村界人)を、父親は排除。狭いムラ社会の残酷な仕打ちも見えてきた。結果、灰川は父親を恨んで殺害、という衝撃の過去が明らかになる。
真犯人も気になるが、謎の男(クレジットに名前がなくても、美しい筋肉のフォルムと鋭い目つきですぐに分かった笠松将)の暴挙と灰川との関係も気になる。
灰川邸事件は2017年、灰川が父親を殺した昭和にも遡る展開だが、そもそも現在は2024年。第1話の冒頭では、刑事を辞めた冴木のもとに記者(山下美月)が取材に訪れる。今、起きている少女失踪事件と過去の灰川邸事件がつながっているという構図だ。
原作漫画とは異なる仕立てに一抹の不安を覚えつつも、過去と現在が地続きで、虐待や暴力の問題が一過性ではないことを示唆している気もする。重いが、見応えと意義のある作品だ。