電撃作戦でロシアにひと泡も…「ウクライナはなぜリスクだらけの越境攻撃に踏み切ったのか?」 軍事・外交の専門家が首を傾げる理由
占領は非現実的!?
「ウクライナとロシアは国境を接した隣国ですが、ウクライナ語とロシア語では意思の疎通が半分もできません。文化的な相違もあり、これはウクライナ軍の占領には逆風となるでしょう。もちろんロシア語を話すウクライナ人もいますが、占領した地域に住むロシア人と自由にコミュニケーションできるわけではないのです。さらに和平交渉の報道ですが、越境攻撃でメンツを潰されたプーチン大統領が和平や停戦の交渉に応じるとは思えません。それこそ妥協の道を安易に探ると、プーチン大統領の岩盤支持層である保守層が猛反発する可能性もあります」(同・佐瀬氏)
和平や停戦の交渉が難しいのなら、クルスク州にウクライナ軍の精鋭部隊が留まる必要はないと言える。
「大前提としてウクライナ軍がロシア軍を撃滅できるという自信を持っていたなら、迷わず東部戦線に投入したはずです。越境攻撃ならモスクワを目指すべきでしょう。地図を見るとよく分かりますが、ウクライナ軍が攻め込んだクルスク州はモスクワと東部戦線の真ん中に位置し、“ちょっと相手の脇腹を突いた”とでも言える場所です。越境攻撃は国内の厭戦気分を払拭し、戦意高揚を図るのことが目的だったのではないでしょうか」(同・佐瀬氏)
アメリカへの不満
ならばウクライナの旅団に長居は無用であることは明白だが、現時点ですでに手遅れの可能性もあるという。
「今すぐウクライナの精鋭旅団がクルスク州から本国に転進したとしても、無傷で済むかどうかは分かりません。たとえ勝っている作戦でも退却戦は大変なのです。追うロシア軍の猛攻を最後尾の部隊が耐えきる必要があり、戦術的には非常に不利な立場に置かれます。考えれば考えるほど、果たして越境攻撃が必要だったのか疑問は増すばかりで、ウクライナ軍の行動が理解できないのです」(前出の軍事ジャーナリスト)
専門家が見ても目的のはっきりしない、まさに謎だらけの越境攻撃というわけだ。ただしロシアにとっては第2次大戦以来となる本国への“侵略”であり、国民が動揺したり、厭戦気分が増したりする可能性はある。さらに対ロシアではなく、対アメリカに視点を変えると、見えてくるものがあるという。
「ゼレンスキー大統領は常にNATO加盟国、特にアメリカに越境攻撃の許可を求めてきました。しかし、プーチン大統領は『もしロシア本土が攻撃されたら、核の使用も辞さない』と公言し、それもあってNATOはゼレンスキー大統領に自重を求めてきました。しかし今回の越境攻撃はウクライナ側の独断で実施されたようです。そしてプーチン大統領は核兵器による報復を実施していません。ゼレンスキー大統領は『ほら見ろ、ロシアの核発言は単なる脅しだ。もっとウクライナに兵器を供与しろ。ロシアを攻撃させろ』と、アメリカに匕首(あいくち)を突きつけるための越境攻撃だったとしたら、それなりの合理性があるとは思います」(同・軍事ジャーナリスト)
第1回【スコップしか持たないロシアの新兵に「ウクライナの精鋭旅団」が襲いかかった…プーチンの顔に泥を塗る「越境攻撃」が成功した最大の勝因とは】では、なぜウクライナ軍は越境攻撃に成功したのか、その理由はロシア軍の“脆弱性”にあると詳報している。何しろ新兵に渡された武器はスコップだけだったという。
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