電撃作戦でロシアにひと泡も…「ウクライナはなぜリスクだらけの越境攻撃に踏み切ったのか?」 軍事・外交の専門家が首を傾げる理由

国際

  • ブックマーク

疑問の多い朝日と毎日の記事

 CNNによると、ウクライナ軍はクルスク州の町スジャを制圧し、ここに司令部を設置したという。

 司令部を設置したとなると、ウクライナ軍はクルスク州の占領を企図している可能性がある。そして、なぜか朝日新聞と毎日新聞が「ウクライナはロシアとの和平・停戦交渉を有利に進めるため、クルスク州の占領を考えている」と報じたのだ。2紙の記事から該当部分だけを引用させていただく。

《今後の停戦交渉へ向けて有利な状況を作り出すのが最大の目的という見方が浮上》(毎日新聞電子版:8月12日)

《「交渉カード」確保を目的に露領内で一定地域の占領を続ける場合、戦力の維持などが重い負担になる可能性もある》(同上)

《ロシア領内で占領を続けることで、将来の和平協議にロシアを引き込み、譲歩を引き出す狙いも透ける》(朝日新聞:8月15日朝刊)

 だが先に見たとおり、ロシア領内で進撃を続けるだけでも相当なリスクだ。まして占領となると、桁違いにハードルは高い。

「他国を攻めるより、自国を守るほうが有利です。まさしくウクライナ戦争の緒戦で、守るウクライナ軍は攻めるロシア軍を撃退しました。侵略のためには防衛軍の数倍の戦力が必要だと言われています。ましてや敵国の占領となると、占領地を守り抜くだけの兵力や兵站、さらに占領地の住民に行政サービスを提供する人員も確保しなければなりません」(同・軍事ジャーナリスト)

ウクライナ人の“反ロ”信念

 朝日や毎日は間もなく交渉が始まると言わんばかりの書き方だが、激怒したプーチン大統領は一切の交渉を拒否したという報道もある。少なくとも交渉がいつ始まるのかは未定であり、それまでクルスク州の一部を占領し続けるというのは、今のウクライナ軍にとっては厳しいミッションだと言えるだろう。

 防衛大学・名誉教授の佐瀬昌盛氏は、東西冷戦の専門家として知られる。冷戦下のウクライナも2回、訪れたことがあるという。

「私がウクライナを訪問して強い印象として残ったのは、会うウクライナ人は誰もが反ソ連・反ロの強い信念を持っていたことです。ウクライナでは2024年に親ロ派の政権が誕生しましたが、『一体全体、親ロ派のウクライナ人なんてどこにいたんだろう?』と不思議に思い返すほど、誰もが反ロで徹底していました。その代表的人物の一人が、ゼレンスキー大統領です」

 ウクライナでは厭戦気分も蔓延しているが、国民の多くが反ロで団結しているのも事実だという。今回の越境攻撃でウクライナ国民の士気が鼓舞されたのは間違いない。とはいえ、占領となると話は別だという。

次ページ:占領は非現実的!?

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。