子どもがペットをいじめても叱れない親まで…過酷な中学受験で「親が奴隷になる」のを防ぐ処方箋とは
本当に受験をすべきなのか、このまま勉強を続けさせていいのか――。過熱する中学受験に悩む親は多い。なぜなら、受験にまい進することで親子関係が破綻してしまうこともあり得るからだ。どんな解決策があるのか、『中学受験の落とし穴 受験する前に知っておきたいこと』(ちくま新書)を上梓した小児科医・文教大学教育学部教授で、子育て支援事業の「子育て科学アクシス」の代表を務める成田奈緒子氏に、親が過干渉になることで起きる親子の主従逆転、そうならないために親がとるべき“構え”を解説してもらった。(前後編の後編)
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「親が逆に謝ってしまうことも」
中学受験に臨む家庭で問題となるのは、親の過干渉である。過干渉は子に対する「信頼と心配のバランス」が崩れ、子の行動を過剰に心配してしまうことで起きる。
こうした過干渉は脳への悪影響も懸念される。
「10歳から18歳の間は私が『こころの脳』と呼んでいる前頭葉が発達します。前頭葉は論理的思考や問題解決能力を司る。子どもが何か問題を解決しようという時に親がその権限を奪ってしまうと『こころの脳』の発達を阻害していく可能性があります。さらに、言葉で親に反論できないと暴力という形で表出しやすくなる。そもそも思春期はそうした暴力が出やすい時期ではあるんですが、中学受験が契機となるとなかなか修復し難いほどに、関係性が壊れてしまうこともあるんです。例えば、親と子の主従が逆転してしまい、親が子どもの奴隷となってしまう。仮に家庭でペットを飼っていたとして、そのペットを子どもがいじめていても、親が叱れなくなってしまう。なぜ親が叱れないかというと、子どもが何をしでかすかわからないからなんです」
昨年夏に起きた「札幌ススキノ首切り事件」でも容疑者宅は親子の主従関係が逆転してしまい、親が奴隷状態であったことが報じられている。そうしたことはどの家庭でも起こり得るというわけだ。
「子どもが“殺してやる!”“死んでやる!”と喚いてどうしようもなくなって、親が逆に謝ってしまうということもあります」
実はその主従逆転の萌芽が中学受験の塾通いで見られたりするという。
反抗期を迎えない子ども
「親は多額のお金をかけて塾に通わせているので、仮に子どもが塾を嫌がっても、親は行かせたい。すると、主従が逆転して“塾に行ってくれたら欲しいものを買ってあげる”となり、親がお願いする形で子どもを塾に行かせるのです。その後、中学受験を経て入った学校で本人が学校の環境に適応できればいいのですが、もし適応できなかった場合、“お前に言われたからこの学校に入ったのに”“お前のせいでこんなひどい学校に行かされた”とその暴力性が親に向かうことになる。それが何回も続くと完全に主従が逆転した親子関係に至ってしまうというわけなんです 」
逆に子どもが中学校で適応したとしても、別の問題が起こり得る。“反抗期を迎えない子ども”だ。
「私が教えている大学でも反抗期のない学生はとても多いです。そういう子は親子密着が過ぎて、自分で物事を決定することができません。例えば、友達と服を買いに行ってその子がピンクの服を気に入ったとしましょう。するとその子は服を写メしてLINEで母親に送って確認してもらうんです。結局、“ピンクはダメ、紺がいい”と母親から言われるとその瞬間にピンクの服はやめてしまう。そうした子が就職すると、自分で意思決定できなかったり、ストレス耐性がなくて、就職先の環境になじめず、すぐに仕事を辞めたりしてしまう、ということもあるのです」
では小学校時点で親は子どもに対しどういう“構え”をしておくべきなのか。
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