“男子高が女子の入学を拒む”のは不適切? 暴力的な「共学」要求が子供たちの未来を潰す

国内 社会

  • ブックマーク

少数派の受け皿がなくなる

 だが、埼玉県の公立高校がすべて男女別学であるなら、この「勧告書」の読み方も違ってくる。「高校生という多感な時期に、異性と真剣に向き合い共に協力し合って問題を解決していく体験こそ重要」という主張は、異議をはさむべきものではない。しかし、問題とされている別学校は、137校のうちの12校にすぎず、全体の1割にも満たない。

 異性と真剣に向き合う体験が重要であるという認識に、異論はまったくない。だが、そうした体験ができる高校が全体の9割以上を占めるのである。なかには異性と向き合えない子も、思春期ならではの異性アレルギーを示す子も、あるいは、異性が気になってしまうので、3年間くらいは同性だけですごしたいと願う子もいる。そういう子たちの受け皿を用意してこそ、多様性を尊重した社会なのではないのか。

 この勧告が出されたことで議論されているのは、いま記したような子のために残された居場所を、すべて抹殺してしまうかどうかという、きわめて暴力的な話である。

 元高校教諭らによる市民グループ「共学ネット・さいたま」も、この勧告を渡りに船と感じてのことだろうか、不思議な主張をする。たとえば、男女別学校に在籍したトランスジェンダーの生徒が、将来、履歴書の学校名で性的マイノリティであることが明かされてしまう懸念があるのだという。牽強付会もほどほどにしてほしい。

 こんな勧告に正面から向き合わざるをえない埼玉県教委も気の毒だが、いずれにせよ、たった一人の苦情に端を発した、論理の飛躍と破綻に満ちた勧告に教育が左右されるようなことは、まっとうな民主主義社会においては、決してあってはなるまい。少年少女の多様性が守られるか、ノイジー・マイノリティが社会のためを装って自己実現するか。県教委の判断はそういう選択になる。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。