「無知」「愚鈍」「洗脳教育」…中国メディアは「早田ひな」をどう論じたか 東郷神社訪問「石川佳純」「張本智和」には「参拝したから惨敗した」

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「選手には国境がある」

 中華網も特攻平和会館の展示内容に疑問を呈し、次のように記述した。

「知覧特攻平和会館は名称に“平和”の文言があるものの、展示の説明文や解説は特攻隊への強い賛美と尊敬の念があふれている。施設内に掲示されている日本の来場者の言葉を見ると『感動』『同情』『崇敬』といった感情が蔓延しており、侵略戦争に対する反省や批判の声はほとんど見当たらない」

 早田の会見直後、ウェイボーでは中国代表の卓球選手たちが次々と早田の「フォロー」を外した。SNS上のつながりを断つことで早田に対しノーを表明した中国の選手たちに、中国国内では称賛の声が集まっている。前述の中華網も、

「スポーツに国境はないが、スポーツ選手には国境がある。国家の大原則のもと、中国のスポーツ選手たちは愛国心を表明したのである」

 と称えた。会見をきっかけに騒動は拡大し、石川佳純と張本智和が五輪前に放送されたテレビ番組で渋谷区の東郷神社に参拝していたことが掘り起こされ、非難を浴びた。ウェイボー上には、早田を中心に批判の声が大量に書き込まれている。

「神社には行かないでください。中国ファンとの縁を保ちたいなら、行かないで欲しい。日本の神社でまつられている人々は、悪魔です。彼らは無辜の中国人の生命を奪ったのです。どうかもう少し理性的になってください。人間として、客観的に歴史を見て欲しいのです」

「あちらの英雄はこちらの強盗。(中略)張本智和が日本人として東郷平八郎を参拝するのは構わない。だが、お前が日本国籍を選択し、さらには中国人の鮮血で両手を塗られた首切り野郎を参拝するというなら、中国市場で商業的な価値を高めようなどと考えてはいけない」

「参拝したから惨敗した(因為拝了、所以敗了)」という韻を踏んだ投稿にも、1000以上のいいね! が付けられている。

 アカウントを開設したばかりの早田に対し、削除を求める声も多い。

「中日友好は無理です。お互いに立場が違うので。彼女にとっては民族の英雄かもしれないが、どう取り繕っても罪悪は消せない。先祖たちの代わりに許してやることもできない。頼むから、ウェイボーのアカウントを削除してくれ。でないと、被害者の家族が苦しむことになる」

「誹謗中傷をするつもりはない。あなたは自分の神様を拝んでいるのだろう。でも、民族間の怨念を消すことはできない。誹謗中傷をする人も出てくるだろうから、アカウントを削除したほうがいい。正しい判断をしてくれ」

好感度はゼロ以下に

 会見での発言をきっかけに、中国での早田ひなへの好感度はゼロ、あるいはマイナスに達しているのが現状だ。

「なんで神風特攻隊の会館に行きたいなんて言うんだ。(中国代表の)孫穎莎の髪を直してハグしているのを見た時は感動したんだが。申し訳ないけど、国家が第一。もう好きになることはないね」

「やっぱり日本人は歴史を正しく見ることができないんだな。日本人はどうしたって日本人。最初は尊敬に値するライバルと思っていたんだが」

 中国において、歴史問題や領土問題は極めてセンシティブで注意を要するテーマと言える。日本の著名人や企業などが中国国内で一定の支持を得たいのであれば、戦争に関する話題や原発事故などの政治的なテーマには、一切触れない慎重さが求められる。仮に聞かれても「分からない、興味がない」とだけ返すほうが良い。一番安全なのは、そもそも興味を持たないことだ。

 そのほか、満州事変(9月18日)、盧溝橋事件(7月7日)、南京事件(12月13日)、抗日戦争勝利記念日(9月3日)、五四運動(5月4日)、天安門事件(6月4日)といった中国にとって“センシティブな日”はすべて暗記し、その日は喜んでいるような投稿や明るい話題の発表を避けることが賢明だ。さもないと“反省していない”と見なされ、“中国人の国民感情を傷つけた”などと非難されかねない。

タブーの多い“日中友好”

 靖国神社は言うまでもないが、中国人にとっては禁忌とされる神社がほかにも多数あるため、SNSや公の場では「神社に行った」などの書き込みもしないほうが良いだろう。また、台湾(中華民国)を国家と見なすような発言や、絵文字で台湾の国旗アイコンを使うことも避けた方がいい。

 面倒くさいし理不尽に思えるかもしれないが、「中国人の支持を得たい」のであれば、どれも必要なことと言える。もちろん、そこまでして支持を得る必要はないと考えるのも、一つの判断だ。早田ひなの今後の動向に、注目したい。

西谷格(にしたに・ただす)
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方新聞「新潟日報」の記者を経て、フリーランスとして活動。2009~15年まで上海に滞在。著書に『香港少年燃ゆ』(小学館)、『ルポ 中国「潜入バイト」日記』(小学館新書)など。

デイリー新潮編集部

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