松本まりか「夫の家庭を壊すまで」に見た「不倫あるある」と「ないない」

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夫の不倫相手の息子を誘惑…松本まりかの真骨頂

 夫の不倫を知ったみのりは「絶対に許さない」と心に固く復讐を誓う。理子の息子・渉(野村康太)が通っている塾の講師となり、大人の女の色気とかわいさを武器に彼に近づいていく。このあたりは松本まりかの真骨頂である。おねえさん的な包容力と、それでいてえくぼのかわいい少女のような純粋な笑顔をまっすぐに向けられたら、高校生の男の子はイチコロだろう。みのりも息子を持つ母親である。母にとって息子は大事な大事な存在であることをわかっている。だからこそ、母親を苦しめるため、息子の心を奪おうとしたのだ。

 みのりはさらに美容師をしている理子のもとへ行き、髪を切ってもらう。微妙な雰囲気に気づき、理子もみのりが勇大の妻であることを悟る。そして愛する息子の心がみのりに持っていかれそうになっていることも……。だが女ふたりは決定的な言葉を交わすこともなく、探り合いをするだけだ。

 夫の不倫相手にカットしてもらった髪で、母の不倫相手を父代わりと慕っている高校生の男の子を、みのりは「デート」に誘う。自分の愛が裏切られた女が、愛のあるフリをして若い男を手玉にとる構図だ。結果、彼は惑わされ、母親に内緒で行動するようになった。

 夫の不倫相手の息子に色仕掛けで近づく展開は,現実世界では稀有で「ないない」と思われるかもしれないが、不倫の「復讐」に人を巻き込む、複雑な手口を使うケースならある。自ら不倫相手の夫に近づいたり、不倫相手にさりげなく別の男性を差し向けたり……。夫を傷つけたいというより、相手の女性が傷つくことを目的とするのが“サレ妻”たちの特徴かもしれない。

40代の「恭子さん」の復讐劇

 実際、相手の夫に近づいた経験のある40代の恭子さん(仮名)は、最初は誘惑する気などさらさらなかったという。だが夫はまさに「同級生不倫」をしており、女性の夫もまた同級生だった。3人が同じ穴の狢で、自分だけが枠の外にいるような不快感を覚え、不倫相手の夫がよく出没するバーを探し当てて会いに行った。

「探偵事務所に頼んでいろいろ調査してみたら、向こうの夫婦は近所も友人たちも羨むほど仲が良かった。それなのに妻は、うちの夫と不倫しているわけですよ。彼女の評判を下げてやりたい、ひどい目にあわせたいと本気で思った。バーで彼を見かけ、隣に座りました。さりげなく話しかけて彼の心を惹きました」

 必死の演技だった。彼は乗ってきた。3度目に会ったとき、自然の流れでホテルへ行った。「あなたのような人と出会えてうれしい」と熱心に口説いてくる相手と関係をもち、まどろんでいる彼を横目に、ひとりで部屋を出た。彼の妻と恭子さんの夫がホテルへ入っていく写真、ホテルから出てくる証拠写真などを残して……。

「彼女の夫はショックだったと思います。私が,自分の妻の浮気相手の妻だとわかっていたかどうかは知らないけど。その後、向こうの夫婦は離婚することになったようです。私は夫の不倫も知らなかったふりをしつづけていますけどね。子どもたちが成人したら、夫のことはさっさと捨てるつもり」

 不倫相手はもちろん、夫のことも許さない。当然でしょと恭子さんは言う。恭子さん自身も、夫の不倫相手の夫と浮気をしたわけだが、「あれはあってもなくてもよかった行為」と割り切っている。夫に対して少しは溜飲が下がったからいいということらしい。

 妻が「情を捨てて鬼になる」と、夫の両親を巻き込んだり、不倫相手の親を巻き込んだりするケースもある。夫が社会的に制裁を受けるとなれば、自らの生活にも黄色信号がともるので、そこまではしたくない。だが浮気の代償は支払ってほしい。そこで親族内での夫の地位を落とそうと親を巻き込むのである。ふだんから義父母との関係が良好なら、そういった手段も使うことができる。「妻の復讐」を甘く見てはいけない。

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