東京都の「カスハラ防止条例」で、悪質なクレームは減るのか 専門家が語る期待

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 東京都がカスタマーハラスメントの防止条例案を今年9月、議会に提出すると発表した。制定されれば全国初となる。しかし、罰則は設けない方針で、検討部会でも極端な定義しか示せておらず、実効性のある条例になるのかは疑問視されている。さて、カスハラを減らすことはできるのか。

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 7月19日、東京都の小池百合子知事(72)は3選を果たしたばかりの身で早速、カスハラ防止条例案を9月に提出すると明かした。

「小池知事は労働組合などの要請を受けて昨年、防止条例の制定を目指すべく検討部会を立ち上げました。東京都が他の自治体に先駆けて条例を制定すればそれは全国的な基準となり、大きな意味を持つでしょう」(都政担当記者)

「定義」の例は極端すぎるが…

 だが、罰則を設けない理念条例となる方針について、実効性を疑問視する声が上がっているようだ。

 また、4月の検討部会で東京都の担当部長が、カスハラの定義の例について以下のような発言を残したことも物議を醸している。

「3,000円の誕生日ケーキを買ったところ、ネームプレートの表記が間違っていた場合、店員の胸ぐらをつかんだり1億円を要求したりする行為はカスハラに該当します。けれども、丁寧にケーキの返還を要求する行為は、基本的には該当しないと考えられます」

 かような極端すぎる例しか示せていない現状に関して、やはり憂慮する声が聞こえてくるのだ。

「グレーゾーン」

 しかし、刑事事件に詳しいヴィクトワール法律事務所で代表弁護士を務める加藤隆太郎氏に訊くと、

「罰則を設けられないことと、検討部会で極端な例しか示せなかったことのどちらも、仕方がないと思います。客側の正当な意見を主張する権利と、店側の従業員を守る権利とがぶつかり合うグレーゾーンで繰り広げられるカスハラは、業種によってその実例が多岐にわたることもあり、定義づけが難しいからです」

 であれば、防止条例を制定する意味などないようにも思えるが、

「決してそんなことはありません。たとえ理念条例であっても、雇用主に対策や配慮を促すなどの実効性が期待できるでしょう」

 カスハラを研究する犯罪心理学者で東洋大教授の桐生正幸氏も、

「現在は業種や現場ごとの実例を集めて、分析が進められている最中です。今後はそれらの結果を踏まえて、具体的な対策マニュアルが次々に作成されていくでしょう。体系的なデータが蓄積された将来、条例に罰則を加えることも可能になると考えられます」

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