スプーン曲げ少年をめぐるマスコミの暴走 ユリ・ゲラー「超能力ブーム」はなぜバッシングに変わったのか
第1回【「ユリ・ゲラー」テレビ初出演から50年…矢追純一氏が語った「特番の舞台裏」と「超能力ブーム」】の続き
日本の70年代オカルトブームの中でも、超能力ブームはひときわ盛り上がった。その立役者といえば今年78歳を迎えるユリ・ゲラー。そんな彼を初めて日本のお茶の間に登場させたのは、当時、日本テレビのディレクターだった矢追純一氏である。だが、番組の影響を受けた「スプーン曲げ少年」が「インチキ」としてマスコミの糾弾を受けると、ブームは急激にしぼんでいった。
当時の超能力バッシングはなぜ始まり、どのように展開したのか。矢追氏らのコメントを交えつつ、超能力とユリ・ゲラーに熱狂した時代を紐解く。
(全2回の第2回・「新潮45」2009年9月号掲載「シリーズ『昭和』4の謎に挑む5 なぜ人々はユリ・ゲラーに熱狂したのか ◆昭和49年」をもとに再構成しました。文中の年齢、役職、年代表記等は執筆当時のものです。文中敬称略)
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時の人となったS少年
良くも悪くも、木曜スペシャルの放映後、国内は「超能力ブーム」に沸いた。翌月の4月4日には、「特集! 驚異の超能力ユリ・ゲラーのすべて」という第2弾が放映され、さらにブームは過熱する。
全国で出現したスプーン曲げ少年たちの中で、代表的な存在がS少年だった。彼は背中を向けて「曲がれ」と声を出しながらスプーンを肩越しに投げ上げる。落ちたスプーンはグニャグニャに曲がっている。針金を投げ上げると、複雑な模様ができている。
おそらく全国の小学校では、給食用の先割れスプーンを曲げようとして放り投げ、先生に怒られた子どもたちが数多くいたのではないだろうか。
S少年はいくつものテレビ番組や雑誌に登場し、一躍時の人となったが、やがて“事件”が起きた。「週刊朝日」が5月24日号でS少年のトリックを暴き、糾弾したのである。
記事のタイトルは、「科学的テストで遂にボロが出た! “超能力ブーム”に終止符」。一秒間に24回発光するという特殊な「マルチプル・ストロボ」を使用して、S少年のスプーン・針金曲げを撮影したところ、投げ上げる前に曲がっていたことが判明、太ももか腹に押し当てて曲げていることがわかったというのだ。
記事中S少年は「A少年」と仮名になっているが、誰が読んでもS少年と特定できる。
「もちろん、これで世のすべての超自然現象や超能力が否定できるわけではない。しかし『一事が万事』ということわざ通り、トリックではないか、という疑いは非常に強くなったといえる。少なくとも行き過ぎた超能力ブームに重大な警鐘となるだろう」
と記事は訴え、「無理して自分の力を出し、そして疲れはてて、最後の針金のときに、つい細工をしてしまった……」という母親の手記まで掲載した。同誌はその後も7月5日号まで、“反超能力ブームキャンペーン”を展開、追随するマスコミも多かった。
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