プロ球団の“選手”から“経理”に転身 元DeNA「異色の右腕」が選んだ意外なセカンドキャリア「シーズン中から簿記の勉強を始めていました」

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球団選手から球団経理への異色の転身

「実はシーズン中に球団の経理部長を紹介してもらって、仕事内容についてお話を聞いたこともあったんです。その方がとても優しい人で、“野球選手のように表に出て、自分の力で成績を上げていくような華やかな仕事ではないけど……”と口にしたのが印象に残っています。“それでも大丈夫?”と聞かれたので、“大丈夫です”と答えましたね」

 むしろ、それこそが笠井の望んでいた仕事だった。トライアウト終了後、迷うことなく入社を決めた。球団選手から球団経理への異色の転身である。入社後すぐに簿記の資格を取得し、すぐに実務に励む日々が始まった。自分でも驚くほどやりがいを感じていた。

「よく、“数字なんか見たくもない”という人もいる中で、自分はそれがまったく苦になりませんでした。やっぱり、正解のある仕事というのは自分に向いているんだと思います。すべてにおいて根拠がある。正解を導き出す方法がある。でも、野球は決してそうじゃなかった。経理の仕事をしていると、つくづくそう思います」

 現役時代から家計簿をつけていた。そして現在では複式簿記を使って家計の管理をしているという。決して華やかな仕事ではないけれど、さまざまな書類と格闘し、電卓を叩きながら「正解」を導き出す今の仕事は楽しい。充実感も覚えている。かつてトライした「適職診断」は正しかったのだ。

「今は経費精算等を含め、個々の取り引きについて検討・処理する業務が中心ですけど、ゆくゆくはバランスシートをチェックしながら会社全体のお金の流れを把握できるような仕事もしてみたいですね。インボイスのように、税金に関する仕組みは日々変わるので毎日が勉強です。税務署とのやり取りも頻繁にあります。でも、やるべきことがハッキリしていて、自分で努力してアップデートしていく作業は楽しいです。野球選手時代は、“何で休みがないんだろう……”と不満に思うこともあったけど、今はキッチリ週休2日なのもとても嬉しいです(笑)」

「元プロ野球選手」とは思えない発言が続いた。最後に笠井に尋ねた。「あなたにとってのプロ野球選手時代とは?」。

「勲章です。やっぱり、自分でも“すごい世界にいたんだな”と思います。決して活躍したわけではなかったけど、“野球をやりたい”という思いで頑張った結果、本当にプロ野球選手になることができた。大した選手ではなかったけど、《元プロ野球選手》という肩書きが僕にはある。それはやっぱり誇りたいですね」

 何の迷いもない口調が清々しい。現在は会社を支える経理部の一員として過ごす笠井の表情が、この瞬間だけは「元プロ野球選手」となっていた――。
(文中敬称略)

*第1回記事では早大入学後、本格的に野球を学ぼうと野球部に入部するも2日で退部。野球サークルを経て、プロ入りするまで。

長谷川 晶一
1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(双葉文庫)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)、『大阪偕星学園キムチ部 素人高校生が漬物で全国制覇した成長の記録』(KADOKAWA)ほか多数。

デイリー新潮編集部

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