早大野球部を2日で退部…元DeNA「笠井崇正さん」が「サークル出身のプロ野球選手」になるまで

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 ノンフィクションライター・長谷川晶一氏が、異業種の世界に飛び込み、新たな人生をスタートさせた元プロ野球選手の現在の姿を描く連載「異業種で生きる元プロ野球選手たち」。第15回は横浜DeNAベイスターズで投手として活動した笠井崇正さん(30)です。一般的なルートとは異なる経緯でプロ野球選手になった笠井さん。むしろ、そうした生き方が引退後にも大きく影響しているようです。第1回では学生時代からプロ入りするまでを伺います。(全2回の第1回)

早大野球部をわずか2日で退部した異色のプロ野球選手

 かつて、横浜DeNAベイスターズに在籍し、現在は同球団の経理部で働く笠井崇正。彼について言及する際に必ず使用されるフレーズがある。一つは「早大野球部をわずか2日で退部した」というもの。そしてもう一つは「サークル出身のプロ野球選手」である。まずは前者について、本人に尋ねた。

「僕が通っていた高校(北海道・旭川西高校)は野球の強い学校ではなかったので、早い時期から“大学で本格的に野球を学ぼう”と考えていました。結局、早稲田のスポーツ科学部に入学して、すぐに野球部に入部しました。初日は午前中のみで説明を受けて、2日目は午前中に私語厳禁で立ったままオープン戦を見て、午後は腹筋や背筋を鍛えて、ランニングをして、その後にグラウンド整備をして終わり。あまりにも高校時代の環境と違うことに違和感を覚えていました……」

 同じ1年生でも、高校時代に甲子園出場経験を持つ者や、強豪校からの推薦入学の選手と、笠井のような一般入試組とでは、スタートラインに明確な差があった。頭では理解していたこととはいえ、目の前の現実を受け入れることは、当時の笠井には難しかった。

「2日目の練習を終えて家に戻って、“ご飯を作らないとな、洗濯もしなくちゃな、明日は6時から練習開始だな……”って考えていたときに、僕と同じく一般入試で入った1年生から、“今日で辞めます”とメールが入りました。マネージャーに送るメールを、間違って一斉送信してしまったんです。そのメールを見たときに、“オレも辞めよう”って決めました。だから、《わずか2日で退部》というのは、本当のことなんです(苦笑)」

 退部の意思をマネージャーに伝える際に、ふと「早慶戦に出たかったな……」という思いが頭をよぎった。それでも未練はなかった。こうして、笠井の野球部生活はわずか2日で終焉を迎えた。そして、もう一つのフレーズ「サークル出身」について本人が続ける。

「野球部を辞めた後、それでもやっぱり野球がしたいという思いがあったので、普通の野球サークルに入りました。そして、体育の授業でも野球を選択しました。このとき出会ったのが谷沢先生でした……」

 笠井の語る「谷沢先生」とは、元中日ドラゴンズで、名球会入りも果たしている谷沢健一である。彼は早稲田OBであり、このとき体育の授業も受け持っていた。野球経験のある笠井は、授業の際のアシスタントとして谷沢と交流を深めることになる。

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