阪神に「死のロード」はもう死語? それでも投打ともに「8月の急失速」が不安視される理由

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打線は好調で別のチームみたい

 8月に入ってからの阪神は苦しい戦いを強いられている。6日からのヤクルト、広島、巨人と3カード連続で越し。14日の巨人戦では、今季16度目となる完封負けを喫し、自力優勝も消滅した。試合後の岡田彰布監督(66)は「コーチに聞いてくれ」と会見を行わずに球場を去った。

 しかし、その阪神も、ペナント後半戦に入った当初はまるで別のチームになったような変化を見せていた。7月26日に公式戦が再開して以降、3カードを終えて8勝1敗。打線はその9試合で54得点を叩き出し、1試合平均にして6得点。試合後の岡田彰布監督(66)も饒舌になり、8月に入って4戦3本塁打と好調な佐藤輝明(25)について聞かれると、

「楽に打ってるよな。見とっても。全然力まんとなあ。軽く打ってるだけやん、軽くな。力まんというか、力なんかいらんのやから」

 と返し、さらに「だから言うたやん。ヒット出たら、ホームラン出るって」と笑った。指揮官が佐藤の本塁打量産を“予言”していたのは本当だが、不振に喘いだ前半戦は何度も酷評していた。

「チームの調子が上がらなかった前半戦、岡田監督は佐藤を始め、大山悠輔(29)や森下翔太(24)、青柳晃洋(30)をファームに落とすなど、厳しい一面も見せていた。8、9月を勝負どころと見て、そこに向けてチームを建て直そうとし、実際にその通りになったと思います」(在阪記者)

 佐藤が本塁打だけでなく、7試合連続で複数安打を記録したかと思えば、森下は球団史上歴代2位となる10試合連続打点もマーク。チームも7月26日から8月1日までの6試合で計39得点と、打線が爆発した。

 しかし、担当記者やチーム関係者の間では、「打撃陣がほぼ全員、同時に調子を上げてきたということは、調子を落とすときも同時期になるのではないか」との見方が根強くあり、、その時期として予想されていたのが「8月下旬ではないか」というものだった。

「本拠地の甲子園球場では、夏の高校野球大会が8月7日から17日間行われます。阪神は8月1日までの甲子園3連戦を終え、長期ロードに出ます。次に甲子園球場に帰ってくるのは30日です」(前出・同)

 長期ロードに出る前の最後の3連戦と、戻ってから最初にぶつかるのが共に、宿敵・巨人だ。これも、ライバル球団同士の宿命か。8月末まで混戦状態が続いていれば、30日からの巨人3連戦が天王山になるかもしれないが……。

「死のロード」はもう死語?

 さて、この8月の長期ロードだが、かつては「死のロード」とも呼ばれていた。しかし、現在では死語になっているという。その理由は97年に大阪ドーム(現京セラドーム)ができ、一時帰阪できるようになったこと。また02年、阪神監督に就いた星野仙一氏が遠征先のホテルの快適さや、移動手段の時間短縮化実現を理由に「もう、死のロードなんて言わせない!」と言い切ったためだ。

 とはいえ、本当に「死語」になったのだろうか。「選手たちも、8月の長期ロードを気にしなくなった」との意見は多く聞かれたが、京セラドーム完成以降、阪神の長期遠征の勝敗を調べてみると、昨季までの27年間で勝ち越しに成功したのは9回だけ。「死語」と言い切った星野氏の監督時代も02年は5勝10敗1分け、03年も4勝11敗と大きく負け越している。

 昨年こそ18勝5敗と圧勝したが、岡田監督の第一次政権下の5年間(04~08年)で、勝ち越しに成功したのは2回だけ。04年=9勝9敗1分け、リーグ優勝を果たした05年は10勝9敗1分けだったが、06年=9勝11敗、07年=12勝8敗1分け、08年=6勝8敗。5年間の通算成績では勝率5割以下だ。今年は15日現在で5勝7敗となっている。

 20年以降にしても、6勝8敗1分け、21年=7勝8敗、22年=10勝14敗であり、18勝も挙げた昨年を除けば、今も「死のロードはある」と言っていい。

「12年から15年の和田豊氏(61=現二軍監督)が指揮を執っていた4年間は、3度も勝ち越しを決めています。その後を引き継いだ金本知憲氏(56)も3年間で2度勝ち越しています。矢野燿大氏(55)も大きく負け越すことはありませんでした。でも、9月以降の終盤戦で失速する傾向が見られました」(ベテラン記者)

 星野氏が主張したように宿泊ホテルでの快適さ、移動手段の時間短縮は本当だが、今季の8月遠征は24試合が予定されている。そのうち、阪神が京セラドームを「ホーム」として使うのは6試合だけ。「ビジターチーム」として東京、横浜、名古屋、広島を遠征する。その「ビジターチーム」のルーティンを指して、こんな話も聞かれた。

「試合前練習はビジター、ホームの順番で行われます。午後6時スタートのナイトゲームなら、3時にはグラウンドに出て練習を始めます。5時前からウォーミングアップを始めるホームチームと比べ、暑さで体力を奪われるのはどちらなのか、説明しなくても分かりますよね」(元阪神選手)

 それだけではない。調子を落としている選手の早出特打ち、「打ち込みをしたい」と思っている選手の練習場所の確保が難しくなってくるのだ。ビジターチームの練習場の確保に関する相談があれば、ホームチームも“お互い様”で室内練習場の利用時間を割り当てるが、本拠地球場とビジターチームの練習場では勝手が異なる。時間制限などもあって思う存分、練習ができないという。

「ホームチームは試合後、球場に残って居残りのティー打撃をやったり、トレーナーにマッサージをしてもらったりします。ビジターチームはユニフォームのまま移動バスに乗り込み、宿泊ホテルに向かわなければなりません」(前出・同)

 こうした表には見えないビジターチームの不自由さが「8月の負け越し」につながり、さらに「好調な阪神打線を失速させる原因になるのでは?」と懸念されているそうだ。

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