夏の甲子園、「チームの勝利」と「選手への愛情」の狭間で…有田工と熊本工、二人の監督の“投手起用を巡る重い決断”

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 今夏の甲子園出場の49校中、1人の投手だけで各都道府県大会を勝ち抜いたチームはいない。いまや高校野球界でも「継投」はスタンダードとなり、特定の投手に比重がかかる“エース頼み”のような勝ち方の方がむしろ稀になり、そうした投手起用を行うことへ、強い批判が集まる傾向も強くなってきた。【喜瀬雅則/スポーツライター】

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完投が少なくなった近年の甲子園

 投手の肩、肘への負担軽減、さらには暑さを増すばかりとなっている昨今の夏の気象条件など、あらゆる観点から考えてみても、複数投手による「継投」での投手起用は、むしろ当然のあり方なのかもしれない。

 それでも、3年生にとっては負ければ終わりのラストサマー。かつては、エース以外の投手を起用して負けたりすると、学校の地元や高校野球ファンの間から「なぜ代えた?」「どうして控えを使った」といった批判的な意見が起こることも、しょっちゅうのことだった。

 だから、エースの酷使は、そうした“大人の事情”も見え隠れしていたのだ。さらに「この選手の存在があったから、甲子園に来られた」といった“浪花節”も、ここに伴って浮かび上がってくる。それこそ「プレーヤーズ・ファースト」のコンセプトからは程遠い要因が語られ続けてきたのも事実だ。

 ただ、現在の「継投時代」の投手起用と、そうした“かつての高校野球”のコンセプトとの間で、悩ましい問題が出てくるのも否めない。取材している側の私も、どこかその感傷的な思いを、一概に否定できない思いがある。

 今回はあえて、今夏の甲子園で見られた2つのシーンを挙げてみたい。

肘の痛みがプレーに影響

 開幕試合に登場した有田工は、佐賀県大会の5試合・40イニング中、左腕の背番号1・石永煌希が4試合・34イニングを投げた。準決勝、決勝戦では2試合連続で完投勝利を挙げ、チームを2年ぶりの甲子園に導いた。

 部員数46人の県立高。好素材の選手が集まりにくい公立高という環境下で、石永のような大黒柱の存在に、大きな期待と負担がかかってしまうのはやむを得ないところがある。県大会の終盤から「少し肘に違和感があって……」と梅崎信司監督が明かしたのは、開幕試合を6―10の逆転負けで落とした、その試合後のことだった。

 MAX138キロの石永が、開幕戦の滋賀学園戦でのストレートは130キロ前後。「重いというより、けっこう痛くて……。きょうもずっと痛くて……」と試合後に吐露した石永は、1回の3失点も、2死から自らが処理した投ゴロ後、一塁へ悪送球してピンチを広げ、一、三塁となったところで、自らの暴投で3点目を失うなど「自分の送球エラーで流れが変わってしまった。ホントに申し訳ない」と、肘の痛みがプレーに影響したことも認めていた。

「県大会を考えたら、球威も出ていないし、非常に苦しいマウンドでした」

 梅崎監督がそう振り返ったように、晴れのマウンドで、石永はベストコンディションから程遠かった。それでも4―4の同点で7回まで踏ん張ったのは、変化球を交えての巧みな投球技術があったからこそ。しかし8回、再び自らのバント処理の後、一塁へ悪送球するなど、失策絡みで無死満塁とされたところが、さすがに限界だった。

「どこで代えるか、というタイミングのところだけだった」

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