「タワマンは将来の廃棄物」という主張は正しい… “年86万人減”の社会に高層建築はいらない
「国土が狭いから高層化するしかない」
パリ五輪の中継で、上空から俯瞰したパリ市街の光景が映し出されることが多かった。建物の高さが不ぞろいな日本の都市の景観を見慣れた目には、高さが見事にそろった街並みは、ある意味、異様にさえ映るかもしれない。高層ビルも建ってはいるが、それは一定のエリアに集められている。
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念のためにいっておけば、ヨーロッパはどの国のどの場所に行っても、景観を邪魔する高い建物が目に入らない。あったとしてもエリアがかぎられ、歴史や伝統がある地域は都市でも郊外でも、建物の高さを規制して美観を維持している。
日本の状況はヨーロッパとくらべるかぎり、むしろ特殊である。私は地方都市に赴く機会が多い。とくに城郭を取材する場合、おのずと旧城下町、すなわち歴史や伝統がある地域が中心になる。だが、歴史情緒を期待しても、駅前にはタワーマンションが建ち並び、あるいは広い面積が再開発の対象となって、次々と高いビルが建てられていることが多い。
または、城郭や歴史的街区に隣接して(旧城内であることが多い)、何棟もの高いマンションが建ち並ぶ。レンタカーで郊外の田園地帯に移動しても、やはり高いマンションは随所に建っている。過去の遺物ではなく、現在進行形でこうした建築が増え続けている。
小中学校に通っていたころ、何人もの先生が、日本に高いビルが必要な理由を、次のように説明したのを記憶している。日本は国土が狭く、狭い国土の3分の2が森林だ。そこに多くの人が住むためには建物を高層化するしかない――。現実には、国土が狭いとは思えないが、人口が増えていた局面では、そんな理屈が真実味を帯びたのもわかる。
しかし、いまでは前提条件がまったく変わっている。ところが、いまなお高い建物を建て続けているのは、なぜなのだろうか。
予想を超える人口減社会で前提条件は崩壊
7月24日、総務省は住民基本台帳にもとづく今年1月1日時点の人口を発表した。それによれば、日本人の人口は1億2,156万1,801人で、前年より86万1,237人減少した。2009年をピークに15年連続の人口減で、とくに今回は1968年の調査開始以来、過去最大の減り幅となった。
最大の要因は、もちろん少子高齢化である。昨年1年間に生まれた子供の数は、前年より4万2,434人少ない72万9,367人で、1979年に調査がはじまってから最少だった。片や死亡数は157万9,727人で過去最多。両者の差である自然増減が85万360人減と、はじめて80万人を超えた。
内閣府の経済財政諮問会議の下に設置された「選択する未来」委員会が、2014年に発表した報告では、「人口減少数は、現状のままでは、2020年代初めに年60万人減、2040年頃には年100万人減に達する」と警鐘を鳴らしていた。しかも、これらは現実にしてはいけない数字として挙げられていたのだが、いざ2020年をすぎると、人口減少数は予想された危険水域をはるかに超え、減少の速度はさらに増しそうな勢いである。
厚生労働省の第3回社会保障審議会年金部会が、2023年に発表した「将来推計人口」では、2070年の日本の総人口は8,700万人とされる。また、高齢化率は2020年の28.6%から一貫して上昇し続け、38.7%に達すると記されている。だが、統計が発表されるたびに、少子化や人口減は予想を大幅に上回るペースで進んでいるから、現実には、総人口はもっと減るのではないだろうか。
人口減時代を象徴するのが、高い空き家率である。総務省が4月30日に発表した昨年10月時点の住宅・土地統計調査によると、国内の住宅総数に占める空き家の割合は、過去最高の13.8%。空き家の数自体も5年間で50万戸増え、過去最高の899万戸となった。
もうわかると思うが、先に触れた「前提条件」、すなわち、狭い国土に多くの人が住むためには建物を高層化するしかない、という話は、いまではまったく成立しない。むしろ、空き家を減らして既存の住宅街を活性化することこそ必要なはずだ。それなのに、日本各地で高層建築が建てられ続けるのはなぜなのか。
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