【虎に翼】“生理”“虐殺”につづき…またもタブーに切り込んだ 「異例の朝ドラ」と再確認

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「虎に翼」が挑んできたタブー

「虎に翼」は朝ドラとして人気を博しながらも、これまでもいくつかの「タブー」に果敢に挑戦してきた。明らかに歴史的な事実とされてきたことでも、「反日的」とか「自虐的」だと理由をつけ、事実そのものがまるでなかったかのように批判する人たちが増えている。そんな昨今の風潮を恐れることもなく、歴史的な事実は「事実」として、いさぎよく作中に放り込んでくる。おそらく脚本家の吉田恵里香さんの姿勢なのだろう。

 たとえば、戦後になっても「戦前」の価値観を引きずっていた、司法そのものの「タブー」も描いた。戦後の刑法に残った尊属殺人罪(父母や祖父母など直系の尊属を殺した場合は、一般的な殺人よりも重罰が科せられる罪名)を扱い、1950年にこれを合憲とした最高裁判決の裁判官同士の議論を再現し、当時の最高裁判事たちの封建的ともいえる姿勢を明らかにした。のちの1973年に、この規定は憲法違反だと最高裁は大法廷で判例を変更する。通常の朝ドラなら、あえて裁判所の恥部ともいえるこうした部分にわざわざ踏み込まないはずだが、吉田さんはあえて脚本に書き込んでいる。

 朝ドラに初めて同性愛を登場させるという「タブー」への挑戦もあった。寅子の名律大学時代の同級生の轟太一(戸塚純貴)が、やはり同級生の裁判官になった花岡悟(岩田剛典)への愛を、花岡の死後に明かす場面もある。

 主人公の寅子が重い生理痛に悩まされるという場面では、女性の「生理」をかつてなくクローズアップするという挑戦もあった。「生理」について伝えるドラマにはこうした場面はこれまでもあったが、朝ドラのような、いわゆる“普通の連続ドラマ”で「生理」がさりげなく描かれたのも初めてのことだった。

 関東大震災での朝鮮人虐殺を「史実」として朝ドラで伝えた挑戦も注目に値する。朝鮮人虐殺については、近年、保守派の団体などが「そんな事実はない」などと主張し、犠牲者の追悼を妨害する活動を行っている。関東大震災が起きた9月1日に毎年行われている追悼式典をめぐっては、歴代知事が送っていた追悼文を小池百合子都知事は就任時から取りやめてもいる。そういった行動であいまいな印象になりがちな「史実」を、ドラマは「実際にあった歴史」として明確に表現している。

「あの戦争とは何だったのか…」

「虎に翼」の最新回に話を戻そう。原告の弁護団長を務める雲野六郎弁護士(塚地武雅)は、第五福竜丸事件を受けての決意をこう語る。

「忘れ去られることがないように。同じ過ちを繰り返さぬように。誰かが声を上げねばならん」

 寅子ら裁判官も、原爆をめぐる国家賠償請求の裁判を前に、多岐にわたる争点について考える。

「国際法の問題。戦争とは…、戦争のルールとは何か」

「原子爆弾とは何か。日米関係のこれまでとこれから。犠牲者の方々とどう向き合い、これからの教訓とするのか」

 それぞれが自問自答し、最後に寅子がこうつぶやいて遠い目をする。

「そもそも、あの戦争とは何だったのか…」

 戦争や原爆投下の責任を裁くという法律的にも難問に立ち向かうことになった寅子。国際法、憲法、国内法…などを踏まえ、かつてないほど非道な行為である原爆投下について、戦勝国である米国との関係も見据えて判決を下さなければならない。弁護団長の雲野の思いに、寅子の元同級生で弁護士になったばかりの山田よね(土居志央梨)や轟太一も賛同する。あまり多くは語らないが、よねに一目置いてきた寅子もおそらく気持ちは近いのでは? と想像される。

 寅子はエリート裁判官と愛を育み、子連れ再婚に向かいつつある。モデルになった三淵嘉子さんの「史実」を踏まえつつ、原爆をめぐる訴訟の判決と二度目の結婚という大きなイベントをどう乗りこえていくのか。ドラマはちょうど人生の大きな転機にさしかかっている。いったい寅子はどんな判決文を書くのだろうか。

水島宏明/ジャーナリスト・上智大学文学部新聞学科教授

デイリー新潮編集部

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