【虎に翼】“生理”“虐殺”につづき…またもタブーに切り込んだ 「異例の朝ドラ」と再確認
実在した女性初の裁判官をモデルに、司法の歴史をたどっていく「虎に翼」が、異色の朝ドラであることは、これまで何度も書いてきた。数々の“タブー”を恐れず扱ってきた同作が、今週の放送回でまたしてもタブーに挑戦した。【水島宏明 ジャーナリスト/上智大学文学部新聞学科教授】
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それは「原爆投下の法的責任を裁く」というタブーである。
8月14日の放送で、東京地裁の民事24部に配属された寅子(伊藤沙莉)は、日本政府相手に損害賠償を訴えた裁判を担当することになった。広島・長崎に原子力爆弾を落としたのは国際法違反だとして、被爆者が訴えたものである。
もちろん原爆を投下したのは米国で、「通常の戦争行為を逸脱し、無差別に民間人を犠牲にした行為で明らかな国際法違反」。だがサンフランシスコ講和条約で日本は連合国側に賠償請求権を放棄したため、放棄した日本政府を訴えるという構図だ。
訴状には、読み上げた同僚の裁判官が思わず嗚咽するほど、原告たちの凄絶な被害が記されていた。
「広島で被爆。当時47歳。子ども5人が爆死。自身もケロイド。腎臓、肝臓に障害。就業不能」
「当時14歳。広島で被爆し、両親亡くす…」
戦後の日本では、米国に原爆投下の責任を問うことは大きなタブーだった。唯一の被爆国でありながら、米国に安全保障を依存して「核の傘」に守られている国においては、歴代の政府も裁判所も、米国の態度を追認するような政治的な決断や判決を繰り返してきた。
米国の顔色をうかがう日本政府
「虎に翼」では、弁護団が訴訟に踏み切った背景に第五福竜丸事件を挙げている。
1954年、南太平洋のビキニ環礁で行われていた水爆実験によって、マグロ漁を操業していて「死の灰」をかぶった乗組員23人が被爆した。帰国して半年後には、無線長の久保山愛吉さんが亡くなったほか、他の船員たちもガンなどさまざまな病にたおれた。
実は、被曝したのはこの第五福竜丸だけではなかったことが、その後わかっている。南太平洋で繰り返された核実験によって、日本の港から出漁したおよそ1000隻の漁船が被爆し、乗組員たちが若くして亡くなっていたのだ。この事実は、元南海放送(日本テレビ系列)の伊東英朗氏が取材し、2012年にテレビで放送され、その後ドキュメンタリー映画にもなった「放射線を浴びたX年後」で明らかにしている。しかし、日本政府が公式に認めた被害漁船は第五福竜丸だけ。米国政府の顔色をうかがうようにして政策決定をしてきた日本政府は、こうした被害の実態を長いこと隠してきた。まさに「タブー」である。
今、伊東氏は米国内の核実験の影響を調査し、米国内でも早い時期のガン死などが相次いでいた実態を伝えた映画「SILENT FALLOUT」を撮り、米国で自主上映を重ねている。8月2日に放送されたNHK総合の「キャッチ!世界のトップニュース」では、そのニューヨークでの上映会の様子を伝えていた。
伊東氏は「米国政府は自国民に対しても放射線被害をもたらしてきた。そのことを米国民に知ってもらって米国の世論に訴えたい」という壮大な計画を語っている。最近のNHKは、局の垣根を越えても大事なことは報道するという姿勢を見せているといえる。
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