扇子をうっかり忘れた「5代目圓楽」が、高座で見せた“驚くべき対応力”とは
「偉大なる先人」たちの実際にあったエピソードから、ピンチを切り抜けるアイデアを探る。“猿も木から落ちる”のことわざ通り、どんな一流にも「うっかり」はつきもの。むしろそんな時にこそ、その人の真価が問われるのかもしれない――。
(前後編の前編)
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※以下、『一流は何を考えているのか』(西沢泰生著、Gakken)の内容より、一部を抜粋/編集してお伝えする。
小道具のピストルを忘れて舞台に上がってしまったとき
ある舞台俳優のエピソード。舞台で、殺し屋役を演じていた彼。しかし舞台に上がってから、背広の内ポケットに入れておくはずの小道具のピストルを、楽屋に忘れていることに気がつきました。芝居はどんどん進み、もうすぐ対峙する3人の敵を撃ち殺す場面です。
(問題)小道具のピストルを楽屋に忘れた彼は、どうやってこのピンチを乗り越えたでしょう?
(ヒント)敵に囲まれている場面で、セリフでごまかして楽屋に戻ることもできません。
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(答え)まるで手にピストルを持っているかのように、エアで3人を撃ち殺すという演技をした。
彼にとって幸運だったことは2つ。
1つは、早撃ちで3人を撃ち殺す場面だったこと。これがもし、相手の眉間に銃口を押し当ててセリフを言うような場面だったら、どうしようもありませんでした。
もう1つは、銃声が効果音だったこと。これがなければ、コントのように、口で「バキューン」なんて言わなければならないところでした。
この場面を見た観客。ピストルがエアだったことへの反応は何もありませんでした。おそらく、多くの観客が、一瞬は「あれっ? 今、ピストル持っていた?」と思ったのでしょうが、彼のあまりに自然な演技に、「ここは、こういう演出だったのかな」と、勝手に思ってくれたのかもしれません。
何しろ彼、ピストルを持っている手を隠すこともなく、銃口に「フッ」と息を吹きかけて、カッコよく内ポケットに戻すという自信満々の演技をしたのです。まさかこれが、楽屋にピストルを忘れてきた彼の「どうにでもなれ」という演技だったとは、誰も思わなかったという次第。
まさに、開き直りの勝利。
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