「脂質を取らないと、痩せたはいいものの肌がボロボロに」 悪者扱いされる「あぶら」で長寿を目指す健康法とは

ドクター新潮 ライフ

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脂質が不足すると極めて恐ろしい事態が…

「あぶらは太る」

 断続的に沸き起こるダイエットブームの影響などから、脂質は肥満へ導く敵として忌避される傾向がありますが、とても残念なことです。三大栄養素の一つであることから、人間に欠かせない栄養素であるのは自明の理だと思うのですが、どうしても「太ってしまうからできるだけ食べたくないもの」と敬遠されがちです。しかし、脂質が不足してしまうと極めて恐ろしい事態が起きます。例えば――。

 先ほど触れた「良いあぶら」であるオメガ3系脂肪酸が欠乏したマウスは、出産後、仔どもを温めたり、授乳したりといった世話を約4割の母親ができなかったという実験結果があります。赤ちゃんマウスをわざと巣から離すと、普通の母マウスはわが子をくわえて巣に戻すのに、子が鳴いても気付きにくい母マウスが出てきます。

 人間の女性でも、初産婦にオメガ3系脂肪酸を積極的に摂取してもらうと産後うつの症状が軽減するといった報告があります。出産・育児の段階から脂質が生命活動にとっていかに重要か、改めてお分かりいただけるのではないでしょうか。

「痩せたはいいものの肌はボロボロ」に

 それも当然で、人体の約6割を占める水分を除いた有形成分のうち、約4割は脂質で構成されています。とりわけ脳は有形成分の約65%を脂質が占めています。脳に必要な脂質が不足すると機能も低下し、認知能力の低下や、うつ症状などの気分障害に陥りやすくなるのは当たり前のことといえるでしょう。

 そういわれても、ダイエット中なので体脂肪の元である脂質の摂取はやっぱり避けたいと考える人もいるかもしれません。しかし、仮にダイエット中だとしても脂質を取ることは絶対に欠かせません。脂質を適切なバランスで摂取しないと肌荒れなどを招いてしまうからです。

 肌の表面は比較的酸化しにくいオメガ9系脂肪酸が含まれた皮脂で覆われているため、水分の過剰な蒸散が防がれています。また、皮脂膜の内側にあり、肌の潤いを保つ役割をしているセラミド(角質間皮質)にはオメガ6系脂肪酸が不可欠です。さらに、細胞の活性化にはオメガ3系脂肪酸が欠かせません。

 つまり、せっかく美貌のためにダイエットをしても、脂質を取らないせいで肌荒れにつながり、「痩せたはいいものの肌はボロボロで見た目は老化」ということになりかねないのです。

 いずれにしても、約37兆個ある私たちの体の細胞は全て脂質を成分とする細胞膜で覆われているのですから、脂質を摂取することがすなわち健康につながるのはどう考えても当然のこと。悪者扱いするのはお門違いなのです。

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