「ケトン食」に「クエン酸治療」… 「がん難民」の新たな選択肢「がん共存療法」の効果は? 自らもステージ4の緩和ケア医が実践

ドクター新潮 ライフ

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低下したQOLを改善

 ところで、ステージ4の固形がんの場合、治療は延命が目的になるが、その延命された時間のQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生命の質)も重要な要素になる。命が、無治療に比べて数年間延びたとしても、その多くが副作用で苦しむ日々であったのなら、治療に意味を見いだすことは難しい場合もあるのではないだろうか。

 当臨床試験では、アメリカで開発されたQOL調査票FACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy-General)を用いて、臨床試験参加前1週間と臨床試験参加後8カ月~12カ月経過した本年1月半ば時点での1週間のQOLを比較してみた。なお、今回使用した調査票は、がん治療の臨床試験などで世界的に使用されているものの日本語版で、著作権者であるFACIT.orgの許可を得て使用している。

 FACT-G調査票では、QOLを「身体症状について」、「社会・家族との関係について」、「精神状態について」、「活動状況について」の四つの側面から調査し、評価点数が高ければ高いほどQOLが良いとされる。

 調査時点での参加者8名中、標準治療途中離脱者は5名、標準治療無治療者は3名だった。

 その結果、標準治療途中離脱者の臨床試験参加後のQOLは、参加前に比して有意(P<0.05)に改善していたが、標準治療無治療者のQOLはほとんど変わらなかった。

 FACT-G調査が示唆することは、延命目的の標準治療は、その効果の有無によらず、副作用などでQOLを低下させている可能性があり、副作用が少ない「がん共存療法」は、その低下したQOLを改善するということだ。一方で標準治療無治療者は、治療によるQOL低下の体験が無いため、「がん共存療法」によるQOLの改善は認められなかったと考えられる。

さらなるエビデンスが必要

 以上より、「がん共存療法」はステージ4の大腸がん患者に対して、安全に施行できる可能性があり、かつ一定の割合で「無増悪生存期間」の延長を実現できる可能性がある。また、標準治療途中離脱者のQOLを改善できる可能性があるため、標準治療を離脱せざるを得なかった「がん難民」と言われる人々の選択肢になり得ると思われる。

 だが、現時点ではデータの基となる対象者数が少なく、エビデンスレベルが高いとはいえない。がん治療医や緩和ケア医の皆様と連携していくためには、さらなるエビデンスの集積が必要だ。

第2弾も準備

 今回の臨床試験の結果を基に、より確かなエビデンスを得るため、臨床試験参加対象者を、RECIST基準を満たす「大腸がん術後で肺転移のある患者のうち、副作用などで標準治療から離脱せざるを得なかった、もしくは標準治療終了間もない方で、現在の主治医と連携の取れる方」10余名に絞り、第2弾の臨床試験を準備している。参加条件は他にも多々あるので、詳しくは聖ヨハネ会桜町病院のホームページを参照いただきたい。

 すぐにでも「がん共存療法」を受けてみたいと思われる患者さん・ご家族には申し訳ないが、少しでもエビデンスレベルを上げ、より多くの患者さんのお役に立つことを目指した臨床試験だ。あと1年はお待ち願えれば幸いである。

 第2弾も日本財団からの財政支援が約束されている。今後の経過は、改めて報告させていただきたい。それまで読者の皆様お元気で!

山崎章郎(やまざきふみお)
医師。1947年、福島県生まれ。千葉大学医学部を卒業し、同大学附属病院などに勤務。90年『病院で死ぬということ』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)がベストセラーになった。その後は緩和ケアに取り組む。5年前に大腸がんステージ4との診断を受け、抗がん剤に頼らない「がん共存療法」を模索。一昨年、その歩みを記した『ステージ4の緩和ケア医が実践する がんを悪化させない試み』(新潮選書)を刊行した。

週刊新潮 2024年7月18日号掲載

特別読物「ステージ4の『多発移転がん』から6年目 『病院で死ぬということ』の緩和ケア医が選択した『がん共存療法』 『臨床試験』2年目の経過報告」より

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