「ケトン食」に「クエン酸治療」… 「がん難民」の新たな選択肢「がん共存療法」の効果は? 自らもステージ4の緩和ケア医が実践

ドクター新潮 ライフ

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「アルカリ療法」を追加

 生命倫理委員会によって承認された臨床試験への参加条件の下に、タウン紙や病院ホームページにて参加者を募集した。だが、希望者は当初予測したようには集まらず、募集期間を延長し、参加条件を満たした患者さんから順次臨床試験を開始した。募集締め切りの23年6月時点で、参加者は14名だった。

 順風満帆の船出とは言い難かったが、その前月の5月、医療法人社団悠翔会理事長・佐々木淳医師が朝日新聞の書評でエールを送ってくれた。うれしかった。

 さて、14名の参加者であるが、3名は参加時に既に病状がかなり進行していたため臨床試験開始後、間を置かず終了、2名は途中でもう一度標準治療に挑戦してみたいと終了、他の代替療法に代わられた方が1名。また本年(24年)2月、クエン酸療法開始直後に薬疹と思われる皮膚症状が出現し、他の自覚症状もなく、休薬で改善したが、臨床試験は終了とした方が1名おり、本年5月現在は7名(40代後半から60代後半の男性4名、女性3名)の方が臨床試験継続中だ。

 なお、昨年8月より、私の実体験も踏まえて「がん共存療法」の条件に合致する「アルカリ療法」を、生命倫理委員会および日本財団の承認の下、臨床試験に追加した。現在は先述した三つの治療法に加えたこれら四つの治療法を一括して「がん共存療法」としている。臨床試験では、それら一つ一つの安全性や効果を確認しながら、病状に応じて積み重ねていくことにしているため、全員が同時に同じ療法を行っているわけではない。

体調は良好

 さて、その7名の方の1年余りにわたる経過を振り返ってみたい。当臨床試験の目的は、「がん共存療法」の概念を説明した際に既述しているが、穏やかに、自分らしく生きることが可能な「無増悪生存期間」の延長を目指すことだ。

 その評価は、参加者の標的病変の変化をCT検査で計測するRECISTバージョン1.1(Response Evaluation Criteria In Solid Tumors version 1.1)に基づいて行っている。

 RECISTでは、まず臨床試験開始時に、CT検査で増殖の変化を経時的に追跡する起点になる標的病変を決める。標的病変はCT検査で1病変当たり最大径10ミリ以上のもので、かつ1臓器(肺は両側肺)最大2病変までとして、その最大径の和がベースラインとなる。そして、6~8週ごとのCT検査にて標的病変の経時的変化を確認する。ただし、例えば、臨床試験開始時の転移病巣の最大径が10ミリ以下のものは、標的病変の定義に当てはまらないためRECIST基準では評価困難とされ、経過を観察することになる。

 本年5月時点での参加者7名中5名はRECISTに基づいた評価が可能であるが、2名は標的病変の定義に該当せず、評価困難のまま経過観察中だ。

 RECISTでの評価が可能な5名中3名は標準治療を副作用で途中離脱した方、2名は標準治療を選択しなかった無治療者だ。そのうち途中離脱者2名、無治療者1名の経過は、『がん化学療法レジメンハンドブック改訂第7版』(羊土社)に例示されている標準治療の無増悪生存期間中央値に匹敵している(なおCTによる病変の評価は放射線科専門医によって行われている)。

 7名全員、がんの増殖は緩やかに進行しているため、標準治療と同様に、いずれ最終的な時間を迎えることになる。だが、体調は良好で、やがて来るその日に備えながら、普段通りの日常生活を送っている。がんと共存できている日々なのだ。

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