「ケトン食」に「クエン酸治療」… 「がん難民」の新たな選択肢「がん共存療法」の効果は? 自らもステージ4の緩和ケア医が実践

ドクター新潮 ライフ

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副作用や苦痛が少なく高額でない治療法

 私が考える「がん共存療法」とは、がんの増殖を可能な限り抑制し、少しでも長く穏やかに、自分らしく生きることが可能な「無増悪生存期間」(がんの増殖を一定の幅のなかで抑制している期間)の延長を目指す治療法のことだ。

 その条件として、(1)理論的で副作用や苦痛が少ないこと、(2)高額ではないこと、(3)医者であれば、どこでも、誰でもできること、(4)エビデンスを求める臨床試験に堪え得ること、を満たすものとした。

 その実現を目指して、19年9月半ばから、先駆的に他医が取り組んでいる代替療法のうち、前述した条件に合致すると思われるものを参考に、一つずつ、自ら試みてみた。

 いずれも、がんの代謝特性や薬理学的根拠に基づき、がんの増殖抑制を目的としたものである。

「ケトン食」「クエン酸療法」「少量抗がん剤治療」

 最初に取り組んだものはDE糖質制限ケトン食(ビタミンDとEPAの摂取を強化した、低糖質、高脂質、高蛋白質食)であったが、同年12月のCT検査では、肺の多発転移病巣の多くは消失し、残存病巣もかなり縮小していることが分かった。

 その後、残存転移病巣は軽度の増大と縮小を繰り返したため、その都度「がん共存療法」の条件に合う代替療法を積み上げる形で実体験を続けた。

 21年7月の時点で体系化した「がん共存療法」は「MDE糖質制限ケトン食」(「DE糖質制限ケトン食」に糖尿病治療薬メトホルミンを併用したもの)、「クエン酸療法」(抗がん効果があるといわれているクエン酸に、高脂血症治療薬などを併用した治療法)、「少量抗がん剤治療」の三つを、その安全性と効果を確認しながら、病状の経過に応じて積み上げていく方法だ(詳細は拙著参照)。

 同時期、11回目のCT検査を受けたが、10ミリ以下に縮小した転移病巣が数個残っていただけだった。

 以上のような経緯を基にエビデンスを求めるための「がん共存療法」の臨床試験に取り組みたい意向を拙著の中で表明した。

批判と支援の中で

 だが、拙著は評価もされた一方で、医療関係者などからは「エビデンスのない個人的な体験記録に過ぎず、がん患者さんを惑わすものだ」などの批判や非難も受けた。

 自分の病状が悪化する前に、当事者になって気付いた思いを表明しておきたいと考えて執筆したものではあるが、それら批判や非難に応える道は、とにもかくにも前述した「がん共存療法」のエビデンスを求めて臨床試験を実施することだと考えた。

 でもどうしたらいいのだろう? 具体的な取り組みの方向が見えず悶々としていた22年7月、間を置かずして、二つの朗報が飛び込んできた。

 一つはあるジャーナリストからのもので、「がん共存療法」で使用しているメトホルミンが、同年6月から国立がん研究センター中央病院で、悪性脳腫瘍である膠芽腫(こうがしゅ)に対する臨床試験に使われているとの情報。もう一つが拙著をお読みになった日本財団の笹川陽平会長からの「この取り組みは大切なことだと思う。もし条件が整えば日本財団が助成することも可能である。頑張りなさい」とのエールだった。

 この二つの朗報を持って、私は、以前ホスピス医として勤務していた東京都小金井市にある聖ヨハネ会桜町病院の小林宗光院長(現・名誉院長)に会いに行った。そして、同病院で「がん共存療法」の臨床試験(医師主導型の自主臨床試験)ができないだろうかと直訴した。

 結果として、同病院の、ホスピス科部長の三枝好幸医師と、呼吸器内科部長の楠本洋医師(現「新横浜ヒロクリニック訪問診療」院長)が、同院の「生命倫理委員会」に提出する「『がん共存療法』臨床試験に関する倫理審査申請書」の共同提案者に名を連ねてくれたのだ。

 9月半ば、参加条件など幾つかの修正の後に、臨床試験は「生命倫理委員会」の承認を得ることができた。10月下旬、日本財団へ、桜町病院の母体である社会福祉法人聖ヨハネ会として助成金申請を行い、12月初めに承認された。23年1月、念願の「臨床試験」は、ついに始まることになった。肺転移が判明してから3年8か月がたとうとしていた。そしてその時、私の体調は良好であり、転移病巣は縮小状態を維持したままだった。

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