「クラシックカーの隣でガレージ葬」「15万円で済む“小さなお葬式”も」 コロナ後の葬式、最新事情をレポート!

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リピーター割引で15万円に

 同じく自宅からの見送りでも、シンプルさと低価格にこだわり、4月29日、大阪市に暮らした父を見送ったのは、東京都内在住の坂本慎平さん(52)だ。葬儀社仲介業者「小さなお葬式」の利用は、母のときに続き、2度目だった。

「父は4月27日の22時22分に病院で息を引き取りました。病院が『朝までしか置けない』と言うので焦りましたが、小さなお葬式に電話すると、深夜2時に寝台車が来てくれた」

 坂本さんの父は「先逝く者は後人の手を煩わすべきでない」との考えを表明していた。2年前、献体登録をしていた母は自宅で亡くなり、そのまま自宅で家族葬を営んだが、その後父は、「自分のときは葬式も要らないぐらい。できるだけ簡素に」と坂本さんに言い、「私には確たる宗教心はありませんし、戒名も墓も作るつもりはありません。通夜、葬儀、お別れ会等も一切遠慮させていただきます」と遺書に記した。

 そのため、坂本さんは迷わず「直葬」を希望した。しかし、火葬場が29日16時まで空きがなく、「いったん自宅へ」となった。

 結果、父の遺体を実家のリビングルームの大テーブルに36時間置き、その間に親族が花束を手にやってきた。

「納棺師も感じのいい人で、納棺がお別れ会のようになり、結果的によかった」と坂本さん。費用はリピーター割引が利いて、約15万円で済んだ。

「小さなお葬式」ブランドは09年10月に大阪市のユニクエストが始め、全国展開している。葬儀社仲介なので、実際の施行に来るのは下請けの葬儀社だ。受注件数は19年約5万件、23年約8万件。「コロナが追い風になり伸びています」とマーケティング部の澤成はるなさん。火葬式(直葬)、一日葬、一般葬などのプランのうち、火葬式と一日葬が全体の7割を占めているという。

自ら葬儀社の働きをする「お寺葬」

 最後に、自ら葬儀社の働きをして「お寺葬」を行う2寺を紹介したい。

 まず、埼玉県熊谷市の曹洞宗見性院(けんしょういん)。12年に檀家制度を廃し、寄付などの縛りのない個人単位の会員組織に変更。布施の額を明示する。送骨を受け付ける。生き残りを懸け、そのような斬新な取り組みをしてきた中、葬式の自主運営も20年前から行ってきた。

「阿弥陀如来のご本尊を前に、木魚の音一つとっても重みが違うと思います」

 と、橋本英樹住職(58)。確かに、本堂・内陣はこの上なく荘厳かつ華麗だ。

 2年前に中古のアルファードを買ってスライド式ベッドを付け、緑ナンバー登録。それまで唯一外注だった遺体搬送も自分たちで行うようになった。遺体安置、清拭(せいしき)、着替え、化粧、納棺、葬式、出棺……。僧侶5人、職員15人の全員がいずれかの工程を担当するが、それぞれ専門家から学び、葬儀社員に引けを取らないスキルを身に付けているという。

 熊谷市内在住の赤澤美智子さん(65)=仮名=は、3月5日に母(87)の葬儀を見性院で行った。

「母は2晩、見性院の安置室にお世話になりましたが、朝夕のお勤めもあり、常に人がいらっしゃるので寂しくなかったと思う。お葬式はとても厳かで、極楽浄土への旅立ちをご本尊が祝福してくれていると感無量でした」

「地域の方々と共に生きて、死んでいく覚悟」

 もう一カ寺は神奈川県大磯町の東寺真言宗東光院。

 着いて、目を見張った。本堂の半地下が、「生老病死」関連の本が約2500冊並ぶ、広いフリースペースだったからだ。老若男女7~8人が思い思いにくつろいでいるのと同じ空間に、大澤暁空(ぎょうくう)住職(39)と寺務・執事の古井昇空(しょうくう)さん(44)がいらした。

「平成29(2017)年に葬儀を始めた理由ですか? 寺の時間軸は長い。大磯という土地で、私たちは地域の方々と共に生きて、死んでいく覚悟だからです」

 と大澤住職。どういうことか。

 古井さんが、「夫が自死したAさん」を例に挙げた。Aさんは損傷の激しい夫の遺体と対面した。他に対面をしたのは、警察と葬儀社の担当者だけだ。何十年も経て、Aさんが込み上げる思いを吐露したくなったとき、警察や葬儀社の担当者は元のポジションにいないだろう。「転職も転居もない自分たちが見送りをお手伝いしていたなら、後にAさんの思いを聞くためのステージに立てたのではないか。そんな後悔があるんです」と。

営利を追求しない

 葬儀社と同様、あるいは同様以上の工程をすべて二人で行う。くぼんでいる目の付近に詰め物をしてふっくらさせる、膨れている腹からカテーテル等を通して腹水を抜くなど、遺体を生前の元気な頃の姿に近づかせる技のほか、湯灌(ゆかん)や死化粧、納棺の手法も「復元納棺師」に師事して習得した。葬儀社に依頼すると価格が跳ね上がるそうした技も、ここでは無償。通夜30人、葬儀20人を想定した葬儀費用は、会食や返礼品など全てを入れて30万1814円。棺やケア用品などは仕入れ値に全く利を乗せず、「実費弁償」というやり方を採用。遺体の搬送車に白ナンバー車を使用しているのも、営利を全く追求しないからだ。

 葬儀は、檀家に限らず、「どなたでも」引き受ける。近ごろとみに依頼が増えており、今年度(24年6月決算)は50件を超えそうだという。

 ちなみに、この寺はどこから収入を得て成り立っているのかと聞くと、「布施や護持会員からなる活動支援金です」と二人。葬儀を入り口に檀信徒になる人が少なくないとも。また、決算を開示しており、5年分の決算報告を明記した冊子を私にも下さった。

 ことほどさように、葬儀のありようは、今、多様化の一途をたどっているもよう。「死」を考えさせられたコロナ禍が、人々の「右へ倣え」思考に反省を促したのか。「小さく安く」に行き着き、私たちは「心」を置いてきぼりにしていたことに気付いた。揺り戻しがゆっくりと始まっているのかもしれない。

 後編「『“俺、墓がないんだよ”と呟いた元夫を納骨できた』『ペットと入れるお墓も』 コロナ後のお墓のトレンドとは」では、30万円で有名寺院にお墓を作る方法や、ペットと同じお墓に入る方法など、お墓の最新トレンドを紹介している。

井上理津子(いのうえりつこ)
ノンフィクション・ライター。1955年奈良市生まれ。京都女子大学短期大学部卒。タウン誌を経てフリーに。人物ルポや町歩き、庶民史をテーマに執筆。著書に『旅情酒場をゆく』『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『絶滅危惧個人商店』『師弟百景』『葬送のお仕事 (シリーズお仕事探検隊)』など。

週刊新潮 2024年7月4日号掲載

特別読物「『お別れ』は多様化の一途 コロナ後の『お葬式』最新事情」より

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