確実に「渋滞」する時期になぜ車で移動するのか…「渋滞も夏の思い出」と考える人の気持ちが分からない

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無駄の極致

 よく考えてほしい。「渋滞がなく3時間で行ける」か「渋滞があり9時間かかる」のどちらかを選べ! と言われたら「3時間」を必ず選ぶだろう。だからこそ、分散型の休日が必要だし、そのような仕組みに組織がなっていないのであれば、自らそれを申し出るべきである。

「私はお盆の時期には出勤しますので、代わりに翌週休ませてください」と言うべきなのだ。それが認められない組織なんてもはや将来性はないから辞めてしまっていいし、もしもその言い分が通らないのであれば、あなたの能力はあまり評価されていないということだろう。何しろ、組織というものは実績を挙げている人間に対しては滅法弱い。その人の主張は大抵通ってしまうのである。だからこそ、自身の能力に自信を持っている人は組織に対して強く要求すべきである。

 いずれにせよ、渋滞で失う時間というものは、無駄の極致である。仮に夏休みで、2泊3日を実家で過ごすとしよう。実家までは渋滞で片道7時間、往復で14時間かかったとする。実家への滞在時間は50時間程度とすると、14時間というのは28%に相当する。およそ3割もの時間を、窮屈な車の中で過ごすことになるのだ。そこまで時間を浪費するのであれば、本当に「すいている日」を狙って行くべきではなかろうか。

これはこれで良い勉強になった

 以前、運転好きの友人とゴールデンウィークに東京・渋谷から熱海へ行くことになった。案の定、すぐに渋滞にハマり、相模湾沿いの県道は大渋滞。朝8時に渋谷を出たのだが、結局熱海に着いたのは15時になっていた。たった105kmの距離を進むのに7時間もかかった。平均時速は15kmである。だったら東海道線のグリーン車か「こだま」にでも乗れば良かったのに、と渋滞の中、ずっと思い続けたのである。そして帰りも5時間半かかった。バカな旅行だった。

 とにかくお盆という、渋滞が確実に起こる時期に車で遠出をするのはムダである。あなたが合理主義者で、付き合い立てのパートナーがそのような提案をしたら、別れても良いかもしれない。友人がその手の提案をしたのであれば「オレは渋滞が嫌いだ」と断るべきだ。とにかくその手の人物は合理的判断ができないのだ。もうすでに結婚している場合は、ご愁傷様。そのような人物はたとえ苦痛であってもなんとかポジティブに捉えようとするから問題ないのかもしれないが。

 もっと言わせて貰えば、今回の株の大暴落についても「これはこれで良い勉強になった」などと自己を正当化するような人物こそが、渋滞を正当化するのではなかろうか。前向きと言えば前向きではあるものの、実利が取れない人物が渋滞の日にわざわざ移動するのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

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