NHK内部が激変し、劇的にドラマが面白くなった「最大の理由」…前会長時代は月に20人以上のペースで職員が辞めていった
民放とは障がいの捉え方が異なる
ひとり親家庭で、ハンデのある草太がいるため、周囲には岸本家に同情する向きもあった。もっとも、当の岸本家にはお門違い。仲良く幸せに暮らしていた。幸不幸は他人が決めることではない。幸せを決める物差しも存在しない。それをこのドラマは教えてくれる。
ひとみはその後、大動脈解離で倒れ、車椅子での生活になる。その後ある時、 母娘で慟哭した。七実がひとみの車椅子を押して街に出た際、目的地だったカフェの入口に段差があったために入れず、道行く人も冷淡だったからだ。
七実はしゃくり上げながら「ママ、一緒に死のうか」と言った。しかし、こう付け加えた。「ちょっと時間頂戴。ママが生きていたいと思うようにするから」。
ひとみが将来に希望を持てるようにするには、どうすればいいのか。七実はそれまで興味のなかった大学進学を決意する。選んだ学部は人間福祉学部だった。
「やさしい社会にして、あのカフェの入口の段差、ぶっ潰す!」(七実)
七実は草太を疎んじる人間も許さない。家族と自分が切り離せないのである。
やはり民放ではつくれそうにない作品だ。民放作品に障がい者が登場する場合、どうしてもお涙頂戴にしてしまうからである。この作品は違う。障がいは不自由ではあるものの、不幸ではないという考え方が根底にある。障がいを悲劇にしてしまいがちな民放作品とは土台から異なる。原作が若手作家・岸田奈美氏(33)の自伝的エッセーなのが大きい。
この作品が放送されている火曜日午後10時台の前作は「燕は戻ってこない」。やはり好評だった。 この作品も民放ではつくれなかっただろう。第1に代理出産がテーマだったからである。民放では前例がないに等しい。
作家・桐野夏生氏(72)の同名小説が原作。非正規労働者として働く29歳の貧しき独身女性が、裕福で子供のいない夫婦の依頼で代理母となる。3人にとって当初はビジネス感覚だったものの、どんどん脱線していく。
代理母となる大石理紀(石橋静河)は病院職員としてフルタイムで働いているが、非正規なので手取りは月約14万円。男女ともに20代前半でお洒落なマンションに住んでいる民放作品の登場人物とは異なる。
代理母を依頼するのは元世界的バレエダンサー・草桶基(稲垣吾郎)とイラストレーターの妻・悠子(内田有紀)。悠子が不妊症だった。報酬は計1000万円。理紀の子供は出産後にすぐ夫妻に引き渡すことになっている。
ほかにも条件があった。アルコールは口にしないこと、遠出はしないこと、ほかの男性とは関係を結ばないことなどである。理紀はこれらの条件を承諾した。あくまでビジネス感覚だった。
ところが理紀は条件をことごとく破ってしまう。遠出をして、酒を飲み、ほかの男性2人と相次いで関係した。直後に妊娠したため、父親が分からなくなってしまった。
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