とりわけ被害に遭っているのは「手塚治虫」「鳥山明」「高橋留美子」…コレクターが明かす「漫画家サイン色紙」最大の“問題点”

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ネットに贋作があふれている

 芸術品であっても、高級ブランド品であっても、人気が出てくれば必ずと言っていいほど贋作が出現する。日本画でいえば円山応挙や横山大観、洋画家なら藤田嗣治、放浪の画家の山下清などもとにかく贋作が多い作家として有名である。漫画家も同様で、人気がある作家は贋作が多いのだという。

 T氏によると、贋作が多い漫画家は、手塚治虫、宮崎駿、水木しげる、鳥山明、そして高橋留美子が挙げられるそうだ。これらの漫画家の贋作色紙は、毎日のようにネットオークションやフリマサイトに出品されている。この傾向は、ネットオークションが盛り上がった20年近く前からずっと続いているとT氏が言う。

「特にネットオークションは贋作取引の温床になっています。この問題はたびたび指摘されているのですが、サイト側も一向に取り締まろうとしないし、出版社や漫画家の業界団体も見て見ぬふりです。とはいえ、さすがに出版社や漫画家側に二次流通の市場の対策をさせるのは難しいと思いますから、少なくともサイト側は取り締まってほしい。しかし、何ら対策がなされないまま現在に至っています」

 あるネットオークションのサイトで「高橋留美子」「色紙」で検索したら、何枚か品物がヒットしたが、すべて一目でわかるレベルの贋作だった。ところが、そんな贋作にも入札が入っていた。騙されて入札しているのか、それとも贋作とわかって買っているのかはわからないが、T氏によると、これまでに贋作が数十万円で落札されたこともあるそうだ。

生成AIの進化で偽物も進化?

 贋作のクオリティは年々精巧になっている。今回確認された高橋留美子の贋作はどれも稚拙な出来であり、素人目にもわかるものばかりだ。しかし、なかにはプロの漫画家やアニメーターが贋作作りに手を染め、熟練のファンでも見分けがつかないほどよくできたものもあるそうだ。また、今後は生成AIを使った贋作が出てくる可能性も高いと、T氏は言う。

「これまでの贋作は、すでにある本物をトレースしたり、精巧に模写したりして作られたものが多かったので、取引された本物をある程度覚えているだけでも判定できた。ところが、生成AIを使えば、まだネットにも市場にも出ていないオリジナルの構図の絵を生み出すことができる。それを印刷して、色紙をコーヒーなどで汚してそれっぽくして売られたら、普通の人はわかりませんよ」

 日本の漫画家のサイン色紙のコレクターは、世界中に増えているという。中国、台湾、韓国、フランスなどはもちろんだが、サウジアラビアなどの中東方面にもファンがいる。こうしたファンがオークションに代理で入札を依頼するケースも多くなり、価格が高騰している。繰り返すようだが、こうした熱狂的なコレクターにとっては、漫画家のサインはもはやサインではないのである。「芸術品」なのだ。

「最近増えたのは、宮崎駿さんのアニメのレイアウト原画の贋作です。こうした原画はかつて『まんだらけ』で数千円から数万円で買うことができました。ところが今は、宮崎アニメの世界的な人気の高まりゆえ、100万円超えが珍しくなくなり、なかには1000万円を超える価格で落札されることもあります」

何らかの対策が講じられるべき

 相次ぐ高額落札は、それだけ日本の漫画やアニメの人気が世界規模で高まっている証拠といえるが、需要の高まりとともに贋作を生み出す贋作師とのいたちごっこは続いている。コレクターの切なる願いは、オークションサイトやフリマサイトが早急に贋作対策を講じることである。

 近年は漫画家本人がネットやコミッションイベントなどで原画や色紙を売るケースも増えているため、直筆物の流通量は確実に増加している。もちろん贋作を作る側が100%悪いのは言うまでもないが、同時に、サイトの運営側に対しても、贋作を事実上野放しのような状態でいいのだろうかという疑問を抱いてしまうのである。

ライター・宮原多可志

デイリー新潮編集部

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