「クルド人は真面目でよく頑張る」 トラブル頻発でも、解体業者が「クルド人作業員を好んで使う」知られざる理由
「クルド人の先輩のほうがいい」
クルド人作業員は、他の作業員を手伝うなど、全てにおいて温和で、彼らと一緒に働いていると、自然にチーム感のようなものが生まれるのだという。それにつられて若手の日本人作業員も伸び伸びと働き、3日かかるはずの仕事が2日で終わることも珍しくないそうだ。
結局、現場の雰囲気を決定するのは、作業員の心がけということなのだろう。解体業の仕事に従事して8年になるクルド人作業員のBさんは「人間は奴隷と違う。誰も奴隷じゃないよ」と片言の日本語で話してくれた。
Bさんの後輩として働く日本人の若手作業員・Cさんの就業歴は3年。Cさんが言う。
「クルドの人たちはBさんのように、先輩でも変な先輩ヅラをしないんです。後輩の自分がBさんを手伝うと、Bさんも必ず自分を手伝ってくれます。自分がインパクトドライバーやバインダー(註・解体工事用の道具)をBさんに渡せば、その後で必ず自分が必要とする道具類をさりげなく渡してくれます。日本人の先輩だと、『後輩は手伝って当たり前』みたいな感じで、自分をコキ使うだけコキ使うだけなんですよ。それに比べたら、クルド人の先輩のほうがずっといいですね。やりやすいから現場も早く回るし。ただ日本語がよく分からないから、会話に困る時はあります」
こういった取材を重ねると、川口市周辺のクルド人コミュニティに対して好意的なイメージを持ってしまう。とはいえ、一部の在留クルド人が悪態をついたり、日本人では考えられない現場での事故を起こしたりして、地域が迷惑を被っているのは事実だ。
これについてクルド人のBさんは「クルド人だけじゃないよ。変なガイジン、悪いガイジン、どこでもいるでしょ。上野では日本人が日本人を殺して山に捨てたよ」と言う。
いわゆる“クルド人問題”は、日本が抱える難民問題や、日本人と在留外国人の生活習慣が異なることから生まれるトラブルの象徴として、あまりに意図的な形で“槍玉”に挙げられているのではないだろうか。
87カ国の人々が難民申請
日本が難民条約に加盟したのは1981年。ベトナム戦争で旧南ベトナム政権が崩壊し、「ボートピープル」と呼ばれるインドネシア難民が急増したためだ。正式な難民の受け入れが始まり、難民認定に関する入管法の改正もことある毎に実施されてきた。法務省によると現在、日本への難民認定申請者の国籍は87カ国にも及ぶ。
2008年には生活が困窮している難民認定申請者に対する保護費予算が枯渇し、民間団体による支援活動に委ねられた。ところが2010年ごろから難民認定申請者が日本国内で就労することが認められたため、支援負担が軽減。申請者の生活も安定するようになった。
難民認定の申請を行った者は、正規の在留資格を得ていないことから不法滞在者となる。だが「審査中」というお墨付きにより「仮放免者」という法的立場となって認定審査期間中に限り、居住や就労などの権利が認められている。これはクルド人だけに限った制度ではなく、日本で難民認定申請をしている87カ国の外国人すべてに適用されている。
クルド人に「日本で働くな!」、「不法就労反対!」とシュプレヒコールを叫ぶデモ行進の光景も珍しいものではなくなった。だが、難民認定申請者が日本で働けるようになった経緯を踏まえると、こうしたデモが日本人のためになるのかという疑問も湧く。
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