「野菜一つ100円では飯は食えんです」「飢えるのは時間の問題」 深刻過ぎる農家の実情をレポート

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「1億や2億もらっても…」

 企業がやってくると、農家や不動産業者だけでなく、行政も舞い上がるのはどこも同じのようだ。例えば優良農地を確保するためにゾーニング(土地を農用地区域として指定すること)をしようとしても地方自治体が反対するのである。「食」の自給よりも税収を増やすことの方が重要なのだろう。

 飼料畑を狙われて困っているのは古庄さんだけではない。つだ牧場(大津町)の津田朋哉さん(30)もそうだ。牧場以外に所有する畑約8ヘクタールと、借りている畑17ヘクタールの計25ヘクタールでエサ用のトウモロコシを作付している。すでにTSMCの工場周辺に借りていた土地3ヘクタールは、地主から「売るから返してくれ」と言われて返したという。いわゆる農地の「貸しはがし」である。それに加え、今、工業団地を造るので牧場周辺にある飼料畑7ヘクタールの半分を売ってくれと大津町から言われているのだ。

「これまで糞尿を堆肥にして畑にまいていましたが、隣に工業団地ができれば、臭いが問題になって、それもできなくなります。代替地を探していますが、見つけるのは難しいですね。だからといってやめるわけにはいかないんです。畑作農家と違って、畜産農家は牛舎を建てるだけで億単位のお金がかかります。うちも5億円ぐらい借金があります。1億や2億のお金をもらっても、とても間に合いません。売ったら自分の首を絞めるだけです」

年間700戸のペースで廃業

 畜産農家の経済状況も、畑作農家に負けず劣らず厳しいようだ。10年前にバター不足が問題になり、生乳増産のために、設備投資などに最大半額を補助する制度(畜産クラスター事業)ができたが、コロナ禍で牛乳の消費が落ちて生産が抑制されたために借金が返せなくなっている人が多いという。24年2月現在、全国に1万1900戸の酪農家がいるが、近年は年間700戸のペースで廃業している。このまま減少すれば17年後にはゼロになる。「スーパーから成分無調整の牛乳やバターが消えるのは時間の問題」(古庄さん)だそうだ。

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