夏の甲子園で“のびのび野球” 初出場で大旋風を巻き起こした「公立高列伝」

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 昨夏の甲子園では、頭髪の自由化や行き過ぎた上下関係の撤廃など、選手の自主性を認めた慶応が“のびのび野球”で107年ぶり2度目の全国制覇を達成した。そして、過去には、春夏通じて初出場の甲子園で無欲の勝利を重ね、大躍進した“のびのび野球”の公立高校があった。【久保田龍雄/ライター】

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滋賀の「のびのび野球部」が躍進

 創部からわずか3年目で初出場、甲子園でも4強入りの快挙を実現したのが、1985年の滋賀県立甲西である。

 創部1年目、石ころだらけのグラウンドで毎日石を拾うところからスタートしたチームは、3年目の春の滋賀県大会で3位に躍進、近畿大会で強豪・箕島に1対2と善戦したことが大きな自信となる。

 夏の県大会でも、甲西はセンバツ出場校の堅田に0対3から逆転勝ちするなど、粘り強く連日の熱戦を勝ち抜き、待望の甲子園切符を手にした。

 そして、甲子園でも“甲西旋風”が吹き荒れる。初戦で古豪・県岐阜商に7対5と打ち勝つと、3回戦の久留米商戦では、1点を追う延長11回裏、死球に犠打を絡め、4番主将・石躍雄成のタイムリーで同点。なおも2死一、三塁のチャンスに、一塁走者・石躍が飛び出し、捕手の二塁送球が中前に抜ける間に三塁走者が生還するという鮮やかな重盗でサヨナラ勝ちした。

 準々決勝の東北戦も、少ない好機を確実に生かし、後の“大魔神”佐々木主浩(元横浜、マリナーズ)をしぶとく攻める。1点を勝ち越された直後の9回裏、安打と盗塁で1死二塁のチャンスをつくると、石躍の強烈な一ゴロが敵失を呼び、まず同点。

 さらに、2死二塁から「同点なので気楽に打った」という6番・安富秀樹が右翼線を抜き、2試合連続の逆転サヨナラ勝ちで4強入り。「普段の生活をしっかりしていたので勝てました」という石躍の話も好感を呼んだ。

 準決勝のPL学園戦では、清原和博の2発など4本塁打を浴びて2対15と大敗も、「セ・リーグ最下位のチームより強いのでは?」とまでいわれた最強チーム相手に「10点差以内ならウチの勝ち」と思っていた奥村源太郎監督は「3点足りなかった」と残念がった。

 そして、大健闘の教え子たちには、最後まであきらめずに勝利した久留米商戦と東北戦を引き合いに「あのゲームを忘れんと人生を送れ。苦しいときは思い出してほしい」の言葉を贈っている。

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