「閉経すると性欲はなくなる?」 知られざる高齢女性の“性”の最前線…近年増え続ける「HKJ」の実態とは

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「イカセ屋さん」のお世話になって

「わたしは若いころからひどい生理不順で、そのせいか、結婚後もなかなか妊娠できませんでした。そこで30代半ばから医者にかかって、クロミッド(排卵誘発剤)を服用するようになりました。そうしたところ、あまりに性欲が高揚して……」

 と語るのは、60歳代半ばの志麻子さん(仮名)。お会いした瞬間、どう見ても50歳そこそこにしか見えないので、失礼ながら保険証を見せていただいた。するとたしかに、四捨五入すれば70歳になる年齢である。美人演歌歌手の丘みどりを、もうすこしふっくらさせたような顔つきだ。

 志麻子さんは、長年、中堅の不動産管理会社で事務を担当してきた。20代後半で大学時代の同級生と結婚。上述のように“妊活”を経て、38歳で男子を出産。その後、50代でご主人をガンで失い、シングルマザーでがんばってきた。その息子さんも、いまでは商社勤務で海外駐在。退職後の志麻子さんは、フィットネス・ジムなどに通いながら、のんびりと、“若々しい老後”を堪能している。

 だが、先述のように、“妊活”中の性欲には、困ってしまったそうだ。

「排卵誘発剤は、ひとによって様々な副作用があるそうですが、幸い、わたしの場合は、めまいや腹痛などは、ありませんでした。そのかわり、とにかくセックスをしたくなるのです。これもひとそれぞれで、逆に性欲がまったく起きなくなることもあると聞いていたのですが……。とにかく、とうてい主人とのセックスだけでは、おさまりませんでした。もうやめた会社のことなのでいえますが、その時期、“手あたり次第”という感じで、男性社員とやりまくっていました。さすがに噂がたって、こっそり人事部に呼ばれ、系列会社への出向をいいわたされました。しかしそのときの人事部長が女性の先輩だったので、思いきって事情を打ち明けたら、かえって同情されてしまい……」

 出向は撤回されなかったが、なんとその人事部長(当時50代前半)が、女性専用の風俗を紹介してくれた。部長自身、閉経の時期に性欲の亢進で困ってしまった経験があり、風俗で解消してきたのだという。

「しかし、“妊活”中に、主人以外とのセックスで妊娠したら、たいへんです。ところがその風俗は、通称“イカセ屋さん”といい、挿入ナシで満足させてくれるというのです。それなら安心だと、その時期は、月に1~2回、“イカセ屋さん”で解消してきました。ああいう世界があるとは思いもよりませんでした。さほど驚くような金額でもなく、あと腐れもありません。もっと多くの女性に知ってほしいと思ったほどです」

 やがて50歳を前に閉経。更年期障害はほとんどなかったが、月に一度の“イカセ屋さん”通いは、つづけていた。ちょうどご主人を亡くされた時期で、精神的に不安定だったが、そのおかげで乗り切ることができたという。

 ところが志麻子さんの場合、閉経後も、おなじように“イカセ屋さん”に通い、以前とおなじような快感を獲得しつづけているのだという。

「てっきり閉経したら、そういう気持ちには、ならないものだと思っていました。しかし、ほとんど変わらないんです。さすがに量は減りましたが、ちゃんと濡れますし、オーガズムもおなじです。おそらく、更年期の時期に“イカセ屋さん”のお世話になっていたため、挿入ナシで満足できる身体になっていたのだと思います。もしいま挿入したら、膣萎縮で、入らないかもしれません。でも、いまのうちにチャレンジしてみようかとも思っています」

 HKJといえば、男性とのセックスを謳歌する姿を思い浮かべがちだが、こういうタイプもいるのだ。「来週、また“イカセ屋さん”の時期なんですよ」と、志麻子さん、すこし恥ずかしそうに、しかし楽しそうに語っていた。

 閉経後はレジャーや趣味に没頭する女性が多くなる一方、以前のようにセックスや快感を求めつづけるHKJもいるのである。先の雑誌ライター氏が語る。

「考えてみれば、戦後、高齢者の性愛問題が赤裸々に描かれたのは、川端康成『眠れる美女』、谷崎潤一郎『瘋癲老人日記』あたりが最初でした。たまたまこの2作は、1960~62年ころ、同時期に発表されています。岩戸景気~オリンピック景気とよばれた、高度経済成長期です。わたしは、世間の景気が安定すると、高齢者の性愛問題がクローズアップされ、HKJが増えるとの説を唱えています」

 ……? では、いまが好景気だとでもいうのか?

「たしかにいまは好景気とはいえません。ところが、先の『高齢者風俗嬢』でも紹介されている、国税庁の『民間給与実態統計調査』で、興味深いデータが目につきます。〈年齢階層別の平均給与〉平成4年分グラフを見ると、男性は50~59歳を頂点に急激に下降していくのに対し、女性は、あまり差がないんです。もともと女性は若いころから低賃金で、そのまま年齢を重ねる。65~69歳女性でも年収227万円、70歳以上でも211万円。20歳代とさほど変わらない。つまり高齢者になるほど、収入の男女格差はなくなり、女性のほうがおカネに余裕ができるというわけです。だから、いま、世の中は不景気かもしれませんが、すくなくとも高齢女性にとっては、ある程度、余裕のある時代ともいえるのです。ここに、HKJが大挙生まれる素地があります」

 もはや閉経後の性を楽しむHKJにとって、男なぞ必要ないのかもしれない。

*個人情報保護のため、登場した女性のプライベートについては、主旨を逸脱しない範囲で、一部を変更して記述しています。

デイリー新潮編集部

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