「閉経すると性欲はなくなる?」 知られざる高齢女性の“性”の最前線…近年増え続ける「HKJ」の実態とは
書店でも需要が高い「高齢者の性」
デイリー新潮の「話題の本」欄に、長くレビュー(書評)がランクインしている本がある。中山美里著『高齢者風俗嬢』(洋泉社新書)である。風俗産業で働く高齢者女性の実態をルポしたものだ。レビュアーは編集者の都築響一さん。実はこの本、2016年12月の刊行で、すでに紙の新刊入手は困難である(電子出版はあり)。〈74歳AV女優、82歳デリヘル嬢…「高齢者風俗嬢」の真実〉と題されたそのレビューも刊行直後に週刊新潮に掲載されたものであり、決して新鮮な内容とはいえない。
それがなぜ、こんなに長く、興味をもたれるのだろうか?
【写真を見る】書店では「高齢者」と「性」を取り扱った本が多い
いま書店に行くと、“高齢者の性”についての本が多いことに気づく。おなじ著者による『ルポ 高齢者のセックス』(中山美里著、扶桑社新書)、『セックスと超高齢者社会』(坂爪真吾著、NHK出版新書)、『女医が導く60歳からのセックス』(富永喜代著、扶桑社新書)……。そのほか、男性サラリーマン向け週刊誌には、最近でこそ少なくなったが、「死ぬまでセックス」「どこまでも性を楽しんで生きる」といった記事があふれていた。
文芸の世界も同様だ。近年だけでも、岸恵子『わりなき恋』(幻冬舎文庫)、松井久子『疼くひと』『最後のひと』(中央公論新社)など、高齢者の性愛を赤裸々に描いた小説が話題となった。
65歳以上が全人口に占める割合を「高齢化率」という。内閣府の「高齢化社会白書」によれば、令和5(2023)年時点での高齢化率は、なんと29.1%、3623万人となっている。ほぼ、10人中3人は65歳以上なのだ。しかも内訳は男性1571万人、女性2051万人で、完全な“女性高齢者の上位社会”となっていることがわかる。
上記、坂爪氏の著書に、日本性科学会の調査結果が紹介されている。それによれば、「この1年間に性交をしたいと思ったことはどれくらいあるか」の質問に対し、「あった」と答えた60代男性は78%、70代男性は81%となっている。ところが女性も、60代の42%、70代の33%が「あった」と答えているのだという。
日本が初めて経験する超高齢化社会。そのなかで、いまだ衰えていない「性」の問題を、どう考えればいいのだろうか。
「HKJ」とは何か
「男性は、年齢に応じて勃起力が衰えれば、自然とセックスから遠ざかるものです。同時に女性も閉経を迎えればセックスと縁がなくなるものだと、むかしから思われてきました。しかし実は、女性のほうはそうともいいきれなくなっているのが、近年の特徴です」
そう語るのは、長年、このテーマを取材してきた、あるフリーの雑誌ライターである。
「わたしは閉経を迎えてもセックスを楽しんでいる女性を、外でも声に出していえるよう、“暗号”でHKJ(閉経熟女)と呼んでいます。いままで多くのHKJにインタビューしてきました。彼女たちに共通しているのは、いわゆる更年期障害がほとんどないか、とても軽くて、その時期もセックスをつづけていたことです」
ここからライター氏の話は、なにやら医学用語が多い専門的な内容になるのだが、噛み砕いて綴ると、こういうことのようだ。
「女性の体内からはエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが分泌されています。これらが生理や妊娠、出産などにともなう女性特有の健康をつかさどっているわけです。しかし更年期になると、その分泌が急激に減り、閉経を迎えます。日本人の平均的な閉経年齢は、50.5歳です。ところが女性の体内には男性ホルモンであるテストステロンも、わずかですが分泌されているのです」
このテストステロンには性衝動を高揚させる働きがあり、“天然媚薬”などと呼ぶひともいるのだという。
「更年期で女性ホルモンは激減しますが、男性ホルモンのほうは、もともと少量分泌なので、さほど減らないひとがいるのです。そういう女性は、更年期に“男性ホルモン過多”となり、急激にセックスを求めるようになります。なかには、うっすらとヒゲが生えてくる女性もいます。そして、この時期にセックスをしていると、男性ホルモンが安定分泌されるような状態となり、閉経後もセックスを楽しめるHKJとなるのです」
今回、ライター氏の紹介で、まさにその道を歩んでいるHKJを紹介してもらい、インタビューさせていただいた。
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