「アフロ」と「民藝」はなぜ繋がったのか…日本初のシアスター・ゲイツ個展に見える「敬意」と「自由」

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そこには「敬意」と「自由」がある

 さらに進むとゲイツのパフォーマンスの映像で、ゲイツの太く優しい歌声に触れられる。

 次の部屋では陶器一つ一つが人のような存在を感じさせる「ブラック・ベッセル (黒い器)」に会える。常滑(愛知県)で穴窯の技法を習得したゲイツは拠点のシカゴにも自ら穴窯を作り、何日もかけて薪で焼き、灰の力を借りて美しい黒を生み出す。

 それと向かい合うように、屋根の補修素材からなる巨大な7つのペインティングからなる《7つの歌》(2022年)。そしてひたすら年表だけで覆い尽くされた部屋を抜けると、圧倒的な物量で迫ってくる常滑の焼き物たち、貧乏徳利たち。それらがくるくる回る氷山のようなミラーボールの光とDJブースの音楽を浴び、一層重厚さを増して愉快そうにしている。

 展示してある作品全てを拾い上げてしまうと、作品一つ一つが持つ物語を延々と語りたくなるので泣く泣く走り書きなのだが、ゲイツの作品を一通り味わって思うのは、そこには「敬意」と「自由」がある、ということだ。

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 第2回【世界が注目するブラック・アーティストが20年間も訪日を続ける理由 日本初の個展に見える「その地が持つ文化への敬意」】では、森美術館キュレーターの徳山拓一氏が実際に接したゲイツについて語っている。

シアスター・ゲイツ
1973年、米国イリノイ州シカゴ生まれ、同地在住。アイオワ州立大学と南アフリカのケープタウン大学で都市デザイン、陶芸、宗教学、視覚芸術を学ぶ。土という素材、客体性(鑑賞者との関係性)、空間と物質性などの視覚芸術理論を用いて、ブラックネス(黒人であること)の複雑さを巧みに表現している。2004年、愛知県常滑市「とこなめ国際やきものホームステイ」(IWCAT)への参加を機に、現在まで20年にわたり常滑市の陶磁器の文化的価値と伝統に敬意と強い関心を持ち、陶芸家や地域の人々と関係を築いてきた。

土居彩子(どい・さいこ)
1971年富山県生まれ。多摩美術大学芸術学科卒業。棟方志功記念館「愛染苑」管理人、南砺市立福光美術館学芸員を経て、現在フリーのアートディレクター。

デイリー新潮編集部

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