「アフロ」と「民藝」はなぜ繋がったのか…日本初のシアスター・ゲイツ個展に見える「敬意」と「自由」
「アフロ民藝」は空想から生まれたひとつの提案
これは面白そうだ。とにかく森美術館に行こう。シアスター・ゲイツ初の日本での個展であり、ゲイツ最大規模という展覧会に!
森美術館の楽しさは、美術館がある森タワーの53階にたどり着くまでにもある。とにかく森タワー内のスタッフの対応が丁寧なのだ。丁寧さが形だけの流れ作業のようなものではなく、心が伴っている優しい丁寧さなのだ。展覧会は目で見る部分、そして心で見る部分も大きいので、美術館にたどり着くまでの心の状態も展覧会の印象に少なからず影響してくるものだ。
さて展覧会場に入ると、大きな壁一面に、「アフロ民藝とは?」と題したゲイツの言葉が迎えてくれる。
――「アフロ民藝」は約束というよりもむしろ、空想から生まれたひとつの提案であると言えます。
という静かな一文から始まり、やがて情熱と愛のあふれる旋律となって言葉が綴られている。これは実際会場で味わっていただきたいが、この言葉の響き、余韻が作品を見ている間にもずっと体の中に残るものだ。
ゲイツの言葉に続いて私たちが出会う作品は、惜しみなく微笑みを湛えている木喰の彫刻である。民藝のど真ん中に位置する木喰の作品。そして、これとはまるで対照的でありながらしっかりと対になって存在するゲイツのタールの作品。この二つの間を、門をくぐるようにして展覧会場に入ってゆく。
床から天井まで伸びた棚にびっしりと本が
「神聖な空間」と名付けられたこの部屋は広く、作品はポツリ、ポツリ程度で作品同士の余韻が重ならないところが気持ちがいい。余白が多く取られているせいか、自分自身の存在が空間の中で目立ち、自分で自分を意識しながら作品と向き合うことになる。
一歩一歩あるくことも何かことさら特別感があるような……と思いつつ進んでいると、なんだか足元が妙なのだ。おや? と思いしゃがんで床を見、そして触ってみるとザラザラとした土を固めたような素焼きの四角いもの。これが一面に敷き詰められている。なんとこれは常滑で焼いたレンガだそうで、床そのものが作品になっているのだ。
ひっそり目立たず静かに場の空気を作り、やがてジワジワと一番目立ってくる途方もない作品だ。
使い古された板で組まれた十字架、ハモンドオルガン、と作品を眺めながら進んでいくと、次には床から天井まで伸びた棚にびっしりと本が収められている部屋に入る。
「手にとって読めます」と書いてあるので開いてみるが、どうも黒人の歴史について書かれているようだ。英語の書籍が中心だが、日本語のものも少しある。一番てっぺんにある本も手にとっていいのだろうか、と見上げながら、このスケールの大きさに圧倒される。
しかし実は、この壁面を覆い尽くす書棚は、ゲイツが取り組んでいるドーチェスター・プロジェクト(シカゴで最も治安が悪化した貧困地区の再生プロジェクト)のほんの一部を再現展示しただけなのだ。何とおおもとは建築レベル、都市レベルのスケール感なのだ。ここに展示されているのはほんの一部。
[2/3ページ]