「日本最北端のストリップ劇場」の“スター踊り子”が語る「末期がんの常連さんとの忘れえぬ思い出」
がん闘病中でも姿を…
この夏、「ライブ・シアター栗橋」には別れを惜しむファンが連日つめかけている。土日には朝イチの演目から満席となり、立ち見も出る。それでも桃瀬さんにとって、別れの挨拶ができなかった常連さんがひとりいる。皆から「クルクルさん」と呼ばれていた「リボンさん」だった。
「ここが好きになったのはその人の存在もあったんです。クルクルさんはみんなに優しかった。優しかったし、厳しかった。私が舞台上で迷ってる時にはすぐに見抜いて、『できてるよ、自信持って!』って声をかけてくれた。今日もいてほしかったな。最後にクルクルさんにリボンを投げてほしかった」
スタッフの小平さんにとっても、“クルさん”は特別な存在だったという。
「クルさんは常連さんのなかでも、仕切り役みたいな人だったんですよ。どこの劇場にも“ヌシ”みたいな人がいるんですけど、うちはクルさんだった。でも『最近、調子悪いんだよな』ってよく言うようになって、病院に行って診てもらったら、末期がんだった。入院中も抜け出してここに来てくれたんです。だけどリボンを投げても1人、2人投げたら疲れちゃって、ずっと外のベンチで寝ころがりながら、『俺が来なくなったら死んだものと思ってくれ』って」
本名も年齢も知らず
葬式にはスタッフも踊り子も誰も行かなかった。行けなかった。享年もわからない。本名すら誰も知らなかった。
「大っぴらな趣味じゃないから、お客さんはみんな素性を隠すんです。こっちもどんな会社に勤めてるかとか、深く突っ込んだことは聞けない。ただ、ここに来れば会える。それだけで繋がってる……。あ、ショウちゃん! クルさんが来なくなったのっていつだっけ?」
外に出てきた常連さんは「5、6年前だっけかな」とボソッと返し、煙草を二、三口吸った。
「今日だって、まあ、クルさんのために来てるようなもんだよ」
そう言うと煙草を灰皿に突っこみ、背中を丸めてまた場内へ戻っていく。
賑やかなステージの音が漏れてくる。劇場の上空は淡い夕焼け色に染まっていた。千秋楽を終えて一段落したら、屋上に踊り子や常連をあつめ、最後に盛大に“花火”をして閉める予定だという。
第1回【半世紀の歴史に幕を下ろす「日本最北端」のストリップ劇場 「エアコンひとつ移すだけで……」関係者が初めて明かす「閉館の理由」】では、劇場スタッフが閉館に至るまでの苦渋の決断を告白している。