「高倉健さんの手紙」に背中を押されて…北九州唯一の映画館「小倉昭和館」、全焼から477日で“復活”までの軌跡

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座席シートに刺繍されている個人名の由来

「焼失したとき、この映画館は、これからも必要なのだろうかと、何度も自問しました。しかし、多くの方々のご支援をいただいているうちに、これは、単に小倉昭和館だけへの支援ではないような気がしてきました。消えつつあるミニ・シアター文化に対する思いを、たまたまうちが代表して受け取っているような……。なので、これからの昭和小倉館は、単なる樋口家の家業ではなく、パブリックな事業をお預かりしているのだと、そんな思いで取り組んでいます」

 ロビーの片隅にはカフェのカウンターもつくり、以前より人気のあった豆香洞の特製ブレンドコーヒーなどの飲食サービスも復活させた。

 さらにユニークなのは、座席シートの背もたれの端に金色で「人名」が刺繍されていることだ。これは小倉昭和館を支援し、応援してくれている映画人の名前を、了承を得たうえで織り込んでいるのだという。

「中村勘九郎さんは6代目なので、6列9番。中村七之助さんは2代目なので2列7番。鮎川誠さんは、奥様のシーナさんにちなんで4列7番。現在、48人の方々のお名前を入れさせていただいています。これはお客様にも好評で、『今日は有馬稲子さんの席だった』『今度は仲代達矢さんの席に座りたい』などと、楽しんでいただけているようです」

 ミニ・シアターの存在そのものが珍しくなりつつある昨今、三代つづく経営で危機を乗り切ってきた小倉昭和館。現在は、樋口智巳さんの次男で四代目にあたる、樋口直樹さん(30歳)も運営に参加している。智巳さんは謙遜されているが、やはり、代々、樋口家の映画やミニ・シアターに対する熱い思いがあってこその復活劇だったはずだ。座席の最後列の隅には、創業者・2代目に劇場をこれからもずっと見守って欲しいとの思いで、「樋口勇」「樋口昭正」の名が刺繍されている。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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