「高倉健さんの手紙」に背中を押されて…北九州唯一の映画館「小倉昭和館」、全焼から477日で“復活”までの軌跡

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奇跡の復活を遂げるまで

 残念ながら、健さんの手紙を焼け跡から見つけ出すことはできなかった。フィルム映写機は鉄の残骸と化していた。もちろん、イラストレーター・黒田征太郎氏が描いた“ロビー壁画”も、消えた。なんとなく形が残っていたのが、ネオン看板とチケット売場のあたりだった。

「その焼け跡のニュース映像を見た、リリー・フランキーさんから『あのネオン看板だけは、残した方がいい』と連絡が来ました。リリーさんは、北九州市のご出身で、かねてうちを気にかけ、応援してくださっていたのです」

《小倉昭和館1・2》のネオン看板は、まさに同館のシンボルだった(旧館は1・2の2スクリーン)。その赤・青・緑のネオン看板を知らない地元のひとは、いなかった。さっそく智巳さんは、警察の許可を得て焼け跡に入り、関係者に頼んで、そのネオン看板を“サルベージ”してもらった。

「そのほか、《チケット売場》の看板も、なんとか残っていました。いま、この2つは、再開後のロビーにそのままかけてあります」

 しかし、看板が残ったからといって、映画館が再開できるものではない。当初、智巳さんは、このまま閉館することも考えていた。半年間見放題の「シネマ・パスポート」も返金を開始した。

「しかしその後、予想以上に多くの方々から、励ましのメッセージが届きました。女優の奈良岡朋子さん、栗原小巻さん、先述のリリーさんはもちろん、おなじく北九州生まれの俳優・光石研さん……。そのほか、地元の企業や商店の方々……。有志のみなさんはシネクラブサポート会を立ち上げ、1万7000筆もの署名を北九州市長に提出してくださいました。家主の昭和土地建物さんからも好意的なご提案をいただきました。その間、リーガロイヤルホテル小倉さんで無声映画の上映会を開催するなどして、ファンの方々とのつながりも絶やさないようにしてきました」

 2023年1月、智巳さんは正式に再開を表明する。12月に開催される北九州国際映画祭にあわせ、1年後の開館を目標にした。再建のための予定経費は約1億円。クラウドファンディング、募金、企業からの寄付などでまかなう。智巳さんは、その間、あらゆる場所で頭を下げてまわってきた。笑福亭鶴瓶さんはノーギャラで落語会を開催してくれた。いまでは貴重なフィルム映写機も、映像機器会社モノリスから寄贈してもらえることになった。

 着工は2023年4月。もちろん、以前のとおりの再建は無理だった。150坪だった敷地面積は100坪に縮小され、2スクリーンは1スクリーンとなった。席数は、旧館時代は1:228席+2:100席だったが、これも134席となった。それでも、まったくおなじ場所に、一見ほぼおなじ映画館が再建されたのだ。

 そして2023年12月8日、見事にプレ・オープンを果たす。再開記念上映は、「ニュー・シネマ・パラダイス」だった。焼失からわずか477日。まさに奇跡のような復活劇だった。

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