習近平を「国賊」「独裁者」と叫ぶ横断幕が出現 2年前にも似た垂れ幕が 首謀者は現在“消息不明”
首謀者は逮捕
では、なぜ、そのような人口129万人ほどの(中国では)田舎と呼べる地域に、「習近平打倒」の横断幕が現れたのか。最近の中国では、横断幕を掲げて堂々と最高指導者の罷免を求めた例は少ない。筆者の記憶にあるのは、1989年春の北京や上海など大都市の学生による民主化要求運動くらいだ。
筆者も当時、全国紙の特派員として北京で取材に当たっていた。学生は当時、ビラや横断幕はおろか、抗議デモでは名指しで「民主化を阻む元凶」とされる李鵬首相の退陣を要求していた。しかし、運動は天安門事件で終息し、その後、大きな抗議行動はなかったが、2020年以降、習近平総書記への不満が極度に高まってきていると感じる。
しかし、都市部でことを起こせば、2年前の北京の抗議行動と同じく、首謀者は逮捕される可能性が高い。それに、天安門事件当時とは違い、いまやSNSで画像や音声を流せば、世界中でニュースが報道される時代だ。今回の場合も、2年前の事件を報じたのと同じ「李老師不是你老師(李先生はあなたの先生ではありません)」というX(旧ツイッター)が事件をいち早く報じて、世界中に拡散した。
文系学生の就職率は12.4%
では、抗議行動を起こしたのはどのような人物なのか。カギは横断幕に書かれたスローガンにあるのではないか。本文冒頭のスローガンには「ストと授業ボイコットで、独裁者であり国賊の習近平を罷免し統制に反対しよう」とある。まず、疑問に思うのは新化県のような地方都市に、「スト」をするような企業または工場があるのか。あるいは「授業ボイコット」を行うような大学があるのか――ということだ。偽硬貨を生業とするような人もいた地方都市に、大きな企業や、大学のような高等教育機関は存在しない。
となると、横断幕を書いた人物は企業の勤務経験者あるいは大学教育を受けた者と考えられる。つまり、職がなく、新化県とそれほど遠くない地方都市に戻ってきた若い帰省者であり、教育レベルも高いのではないか。それは、「特権ではなく平等、統制ではなく自由」云々という、もう一つの横断幕のスローガンにも特徴的に表れている。
中国では22年の時点ですでに大学卒業生の就職率は極めて低く、文系学生の就職率はなんと12.4%と極めて低水準で、理系でも理学系が29.5%、エンジニア系が17.3%との民間の統計資料もある。
また、世界で自由を守るために活動する国際的なNGO団体「フリーダムハウス」の23年の報告書は「中国政府は国家官僚、メディア、オンライン言論、宗教活動、大学、企業、市民団体など、生活と統治のあらゆる側面に対する統制を強化し続けている」と指摘する。
実際、習近平最高指導部の10年間で、政府による公的な表現規制がますます拡大するなか、言論の自由の場が縮小していることも、若者の心理に影響を与えている要因のひとつだというのだ。
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