ドイツが「欧州の病人」に戻る…米ミサイル配備で「ロシアとの最前線」に“復帰”すれば、経済への悪影響は必至

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今年もマイナス成長との見方が

 7月30日に発表されたユーロ圏の第2四半期の国内総生産(GDP、速報値)は前期比(季節調整後)0.3%増と、予想(0.2%増)を上回る結果となった。フランス、スペイン、イタリアの経済は好調だったが、域内で最大の経済規模を誇るドイツの成長率は0.1%減と予想外のマイナスだった。

 ドイツは昨年、0.3%のマイナス成長となり、主要国の中で最も経済が悪化した。第1四半期に景気後退(リセッション)入りを回避したものの、依然として景気が上向いておらず、今年もマイナス成長となるとの見方がある。

 ドイツ経済が誇る製造業に回復の兆しが見えてこない。

 S&Pグローバルがまとめたドイツの製造業購買担当者景気指数(PMI、改定値)は43.2と前月の43.5から低下した。好不況の境目である50を25カ月連続で下回っている。これは1996年以降で最長だ。

 中堅・大企業の上半期の倒産件数は前年比41%増の162社だった。7月のインフレ率は前年比2.6%と前月の2.5%を上回っている。

天然ガス価格の高騰で窮地に

 経済の低迷が続いている状況を踏まえ、ドイツは再び『欧州の病人』に逆戻りしてしまうのではないかとの懸念が強まっている。

 ドイツがかつてそう呼ばれたのは、1990年代から2000年代初頭にかけてのことだ。1990年に旧西ドイツと旧東ドイツを再統一してから、その重荷により経済が長期にわたり低迷した。

 この状況を打開するため、ロシアから安価なエネルギーを調達する仕組みを整備し、最近まで欧州域内で一人勝ちの状態だったが、ロシアのウクライナ侵攻で状況は一変した。産業競争力の源泉だったロシアからの輸入を停止したことから、ドイツが調達する天然ガス価格が高騰したからだ。

 足元の天然ガス価格は2022年夏のピーク時よりも大幅に低下したが、以前と比べればまだ割高だ。そのせいでドイツは、深刻な産業空洞化のリスクに直面している。

 ドイツ商工会議所が8月1日に発表した調査結果によれば、エネルギー価格の高騰などを理由に国内生産の縮小や海外への生産移転を検討している企業の割合は37%と、昨年の31%、2022年の16%から大幅に上昇した。エネルギー集約型企業では45%、従業員500人以上の大企業では51%に達している。

 ドイツ経済省は昨年、産業用電力料金に補助金を交付することを提案したが、財務省の反対に遭い、実現できなかった。

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